仕事帰りに坂道を下っていくと、ちょうど眼下の市街地が夕陽にスポットライトのように赤々と照らされていて「太陽に向かって坂を下っていく」というフレーズが頭に浮かびました。私の中にも「詩人の魂」のカケラくらいはあるようです。まるでかちかちの干し柿のようになってしまっているのが、残念ですが。
【ただいま読書中】
『顔をなくした少年』ルイス・サッカー 著、 松井光代 訳、 新風舎、2005年、1500円(税別)
親友のスコットがつきあい始めたグループは、いわゆる不良あるいはいじめっ子グループで、彼らに自分も「クール」だと言われたいと思ったデーヴィッドは一緒に一人暮らしをしているおばあさんの持っている杖を盗みに行きます。しかし、グループが花壇を踏みにじりおばあさんをひっくり返してパンツを丸見えにしレモネードを顔にぶちまけ水差しと窓ガラスを割り杖を盗んだのに対して、おばあさんはデーヴィッドにだけ呪いをかけます。「おまえのドッペルゲンガーがおまえの魂を吸い上げてしまうだろう!」
スポーツも学業もぱっとせず、といって悪いことにもためらいを見せるデーヴィッドは学校でいじめの標的になりますが、そんなことを気にしないラリーが新しい友人となります。イジメが大嫌いな女の子モーとも仲良くなります。ラリーはモーのことが好きで一緒に行動するようになりますが、それがまた「三バカ大将」としていじめの対象となります。さらに「呪い」が発動します。ボールを投げたら家の窓ガラスを割り、授業中ひっくり返ってしまい、ズボンのジッパーが下がっていてパンツが見え(これもまたいじめの対象となります)、実験でビーカーを割ってしまいます。さらに小麦粉をかぶってしまいます(これはflourとflowerのシャレかな?)。
デーヴィッドは恋をします。相手はミス・ウィリアムズ。いや、トーリです。デーヴィッドはうじうじと悩みます。どう見ても相思相愛なのに、一挙一動一言にデーヴィッドはうじうじうじうじ(白昼夢のオンパレードが笑えます)……ああ、青春だなあ、と私は呟きます。懐かしい日々が思い出されます。デービッドはトーリをデートに誘うこともできません。断られるのもこわいし、もしOKされてもその最中に呪いのせいでひどいことになるのも怖いのです。デービッドは何もできません。そしてデービッドは、ラリーが言う「面目を失う」の意味がわかります。自分は「顔」を失ったのだ、と。やっと勇気を振り絞ってトーリに電話番号を聞こうとした瞬間、ヒモがほどけてズボンがずり落ちてしまいます。
デーヴィッドは最後の勇気を振り絞り、おばあさんの家を再訪します。謝るために。おばあさんは言います。「杖を取り返しておいで」。
デーヴィッドはトーリにもすべてを告白します。ここは深刻になるべき場所のはずですが……笑えちゃうんですよ。著者の“腕”は一級です。そして最終章で150年跳んでしまう前のセリフ……「あなたは親切で、考え深い、思いやりのある人だわ。私たちの生きているこの冷たい世の中では、たぶんそれが呪いなのかもしれない。あなたは詩人の魂を持っているのよ」……どんなに優秀でも詩人の魂を持たない人間もいれば、そういった人たちに「マヌケ」と呼ばれながらも詩人の魂を持つ(そしてそれを理解してくれる友人を持つ)人もいる……ただそれだけのことなんでしょうね。
ちょっと思わせぶりなストーリー展開ですが、けっこうストレートな青春物で、爽やかな読後感です。
【ただいま読書中】
『顔をなくした少年』ルイス・サッカー 著、 松井光代 訳、 新風舎、2005年、1500円(税別)
親友のスコットがつきあい始めたグループは、いわゆる不良あるいはいじめっ子グループで、彼らに自分も「クール」だと言われたいと思ったデーヴィッドは一緒に一人暮らしをしているおばあさんの持っている杖を盗みに行きます。しかし、グループが花壇を踏みにじりおばあさんをひっくり返してパンツを丸見えにしレモネードを顔にぶちまけ水差しと窓ガラスを割り杖を盗んだのに対して、おばあさんはデーヴィッドにだけ呪いをかけます。「おまえのドッペルゲンガーがおまえの魂を吸い上げてしまうだろう!」
スポーツも学業もぱっとせず、といって悪いことにもためらいを見せるデーヴィッドは学校でいじめの標的になりますが、そんなことを気にしないラリーが新しい友人となります。イジメが大嫌いな女の子モーとも仲良くなります。ラリーはモーのことが好きで一緒に行動するようになりますが、それがまた「三バカ大将」としていじめの対象となります。さらに「呪い」が発動します。ボールを投げたら家の窓ガラスを割り、授業中ひっくり返ってしまい、ズボンのジッパーが下がっていてパンツが見え(これもまたいじめの対象となります)、実験でビーカーを割ってしまいます。さらに小麦粉をかぶってしまいます(これはflourとflowerのシャレかな?)。
デーヴィッドは恋をします。相手はミス・ウィリアムズ。いや、トーリです。デーヴィッドはうじうじと悩みます。どう見ても相思相愛なのに、一挙一動一言にデーヴィッドはうじうじうじうじ(白昼夢のオンパレードが笑えます)……ああ、青春だなあ、と私は呟きます。懐かしい日々が思い出されます。デービッドはトーリをデートに誘うこともできません。断られるのもこわいし、もしOKされてもその最中に呪いのせいでひどいことになるのも怖いのです。デービッドは何もできません。そしてデービッドは、ラリーが言う「面目を失う」の意味がわかります。自分は「顔」を失ったのだ、と。やっと勇気を振り絞ってトーリに電話番号を聞こうとした瞬間、ヒモがほどけてズボンがずり落ちてしまいます。
デーヴィッドは最後の勇気を振り絞り、おばあさんの家を再訪します。謝るために。おばあさんは言います。「杖を取り返しておいで」。
デーヴィッドはトーリにもすべてを告白します。ここは深刻になるべき場所のはずですが……笑えちゃうんですよ。著者の“腕”は一級です。そして最終章で150年跳んでしまう前のセリフ……「あなたは親切で、考え深い、思いやりのある人だわ。私たちの生きているこの冷たい世の中では、たぶんそれが呪いなのかもしれない。あなたは詩人の魂を持っているのよ」……どんなに優秀でも詩人の魂を持たない人間もいれば、そういった人たちに「マヌケ」と呼ばれながらも詩人の魂を持つ(そしてそれを理解してくれる友人を持つ)人もいる……ただそれだけのことなんでしょうね。
ちょっと思わせぶりなストーリー展開ですが、けっこうストレートな青春物で、爽やかな読後感です。