私はこの2~30年紅白歌合戦をまともに見ていませんが、つくづく不思議に思うのは、なんで年末に「合戦」をしなければならないのか、です。「競演」だったらまだわかります。一年を歌で振り返って盛り上がろう、という趣向ですから。だけど、なんで「応援」やら「勝った負けた」をしなければならないのかが不思議。「勝ち負け」はたしかにわかりやすい盛り上げではありますが、もっと他に新しい発想や工夫はできませんかねえ。
どうせやるのなら、ちまちまと「赤勝て白勝て」の応援合戦で盛り上がろうとするよりも、もっと壮大なドラマ(たとえば、日本の歌の過去/現在/未来の構図)の中に優れた歌い手を次々はめこんでそれを鑑賞する趣向とかはいかがでしょう。あるいは今年のヒット曲がもし過去のカヴァーだったら、そのリスペクトとしてオリジナルを歌った人と競演する、とか。とにかく何か全体を貫く“ドラマ”が欲しいのです。「豪華な学芸会」「勝った負けた」だけじゃもったいない。
【ただいま読書中】『狂風世界』J・G・バラード 著、 宇根利泰 訳、 東京創元社(創元推理文庫SF813)、1970年、170円
著者の初長編です。
イギリスは黄砂現象に襲われていました。全地球的に毎日少しずつ風速を増していく東風(物語の始まったときに風速はイギリスで時速55マイル、赤道ではもっと強風)によって、飛行機は軒並み欠航となり、船は強風で座礁が連続しています。カナダへ移住するつもりのメイトランド教授はイギリスに足止めとなってしまいます、
風速は着実に一日5マイルずつ増加を続け、とうとう時速100マイルを超えます。政府はやっと対策に本腰を入れ始めます。入院している提督をアメリカに輸送するための潜水艦艦長ラニヨン中佐は、特殊装甲の軍隊輸送車に乗り組みますが、通り過ぎた町は風で崩壊し始めていました。
東京とシンガポールでは風速は170マイルを突破、都市は壊滅します。ヴェニスは放棄。
風速180マイル(秒速80m)。戦車と重装甲車しか安全に走れず、ロンドンでも建物があちこちで倒壊し始め、政府はこのままだと死傷者が国民の50%と見積もります。メイトランドは軍にもぐりこみ軍医として働いています。ラニヨンは生きるか死ぬかの地上行のあと、やっと安全な海面下に潜ります。
250マイル(秒速111m)。情報部隊の地下司令部は、大戦末期のヒトラーの掩蔽壕のような有様になっていました。地球のどこでも、地表6フィートの土壌ははぎ取られて空中を舞っています。逃げ場を求めての醜い争いが行なわれます。
350マイル(155m)。風は、大量の砂塵と岩のカケラによって、まるで個体の壁が高速で移動しているかのようになっています。アメリカ軍は少しでも風が弱いグリーンランドへの避難を開始しています。さらに北極圏への移動も考えているという噂が流れています。北極なら「東風」は吹かないでしょうから。幸運にも逃げ込めた地下街でメイトランドはラニヨンと出会います。そして彼らは、「狂風に立ち向かって“人類ここにあり”を示す」妄念にとりつかれた億万長者ハードゥーンが作った巨大な鉄筋コンクリート製のピラミッドにたどり着きます。ピラミッド自体はどんな風にも耐えられる作りでした。しかし、地盤が崩壊を始めます。
読んだ方はご存じでしょうが、最後は一応“ハッピー・エンド”の形とはなっています。ただ、本当にこれで“ハッピー”なのか、これで本当に“エンド”なのか、と疑問を持たせる終り方ではありますが。
まだバラードの筆が熟していないのか、あるいは自然の暴威があまりに巨大すぎたためか、メイトランドやラニヨンの冒険が小さなものとなってしまっています。各個人のパートはそれなりに読み応えがありますが、二人が出会ってからの物語がもう少し膨らんでも良かったように思えます。ただ高校の時にこの本を読んでからしばらくは、風がヒューと吹くたびにびくりとしたものでしたっけ。恐怖小説としても上等な作品です。
どうせやるのなら、ちまちまと「赤勝て白勝て」の応援合戦で盛り上がろうとするよりも、もっと壮大なドラマ(たとえば、日本の歌の過去/現在/未来の構図)の中に優れた歌い手を次々はめこんでそれを鑑賞する趣向とかはいかがでしょう。あるいは今年のヒット曲がもし過去のカヴァーだったら、そのリスペクトとしてオリジナルを歌った人と競演する、とか。とにかく何か全体を貫く“ドラマ”が欲しいのです。「豪華な学芸会」「勝った負けた」だけじゃもったいない。
【ただいま読書中】『狂風世界』J・G・バラード 著、 宇根利泰 訳、 東京創元社(創元推理文庫SF813)、1970年、170円
著者の初長編です。
イギリスは黄砂現象に襲われていました。全地球的に毎日少しずつ風速を増していく東風(物語の始まったときに風速はイギリスで時速55マイル、赤道ではもっと強風)によって、飛行機は軒並み欠航となり、船は強風で座礁が連続しています。カナダへ移住するつもりのメイトランド教授はイギリスに足止めとなってしまいます、
風速は着実に一日5マイルずつ増加を続け、とうとう時速100マイルを超えます。政府はやっと対策に本腰を入れ始めます。入院している提督をアメリカに輸送するための潜水艦艦長ラニヨン中佐は、特殊装甲の軍隊輸送車に乗り組みますが、通り過ぎた町は風で崩壊し始めていました。
東京とシンガポールでは風速は170マイルを突破、都市は壊滅します。ヴェニスは放棄。
風速180マイル(秒速80m)。戦車と重装甲車しか安全に走れず、ロンドンでも建物があちこちで倒壊し始め、政府はこのままだと死傷者が国民の50%と見積もります。メイトランドは軍にもぐりこみ軍医として働いています。ラニヨンは生きるか死ぬかの地上行のあと、やっと安全な海面下に潜ります。
250マイル(秒速111m)。情報部隊の地下司令部は、大戦末期のヒトラーの掩蔽壕のような有様になっていました。地球のどこでも、地表6フィートの土壌ははぎ取られて空中を舞っています。逃げ場を求めての醜い争いが行なわれます。
350マイル(155m)。風は、大量の砂塵と岩のカケラによって、まるで個体の壁が高速で移動しているかのようになっています。アメリカ軍は少しでも風が弱いグリーンランドへの避難を開始しています。さらに北極圏への移動も考えているという噂が流れています。北極なら「東風」は吹かないでしょうから。幸運にも逃げ込めた地下街でメイトランドはラニヨンと出会います。そして彼らは、「狂風に立ち向かって“人類ここにあり”を示す」妄念にとりつかれた億万長者ハードゥーンが作った巨大な鉄筋コンクリート製のピラミッドにたどり着きます。ピラミッド自体はどんな風にも耐えられる作りでした。しかし、地盤が崩壊を始めます。
読んだ方はご存じでしょうが、最後は一応“ハッピー・エンド”の形とはなっています。ただ、本当にこれで“ハッピー”なのか、これで本当に“エンド”なのか、と疑問を持たせる終り方ではありますが。
まだバラードの筆が熟していないのか、あるいは自然の暴威があまりに巨大すぎたためか、メイトランドやラニヨンの冒険が小さなものとなってしまっています。各個人のパートはそれなりに読み応えがありますが、二人が出会ってからの物語がもう少し膨らんでも良かったように思えます。ただ高校の時にこの本を読んでからしばらくは、風がヒューと吹くたびにびくりとしたものでしたっけ。恐怖小説としても上等な作品です。