長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

シャガの擬態

2020年04月08日 23時13分09秒 | 美しきもの
 幾ひらかのかたみを残して、今年の桜の頃は過ぎていった。



 武蔵野の雑木林の木洩れ日、その下草の中に、実生の楓を見つけた。



 ミニチュアの破れ傘のようでもあり、南洋の椰子のようでもあり…
 そういえば、私が育った故郷の庭の、日当たりの悪い植木の下草に、特撮用ミニサイズのジャングルのモサモサっとした熱帯雨林に似た苔が生えていたのだが、何という植物だったのか…眼下に辿りゆく失われた世界への憧憬を込めて、心はキングコングやゴジラ、モスラ、あるいは川口浩の探検隊員となり、子どもたちは想像の翼を広げた。

 

 綿毛の飛んだタンポポの果肉様の萼のうてなは、妖精たちのパン、もしくは我らが探検隊の糧食であった。
 ままごとに発する、子どもたちの見立て遊びは際限なく、ミクロの視点から覗く世界に飽きることがなかった。



 この度のコロナ禍で、当分のあいだ閉鎖になった植物園のお知らせが気になる。
 どこぞの庭園では、羅生門葛(ラショウモンカズラ)が咲いたという。
 皆様ご存知、頼光四天王・渡辺綱に斬り落とされた、鬼神・茨木童子のかいなに、花の形を見立てた命名であるらしい。

 お隣の公園にも群生していたが、意外と小さいサイズの野草で、うまく撮影できなかった。
 そして、我が家のレモンの葉の新芽が、私の見立て命名心をくすぐった。



 シザーハンズ・檸檬。ティム・バートンのあの映画を想い出すたび、胸が切なくなって、泣きたくなる。

 さて、公園のソメイヨシノも幾もとか根元からバッサリ剪定されて、池の汀が寂しくなっていたのだが、日当たりがよくなったのか、例年は日陰者のようにひっそり群れて咲くシャガが、妙によく育って大振りの花が誇らしげに顔を向ける。
 …ところへ、ひらひらとモンシロチョウがとまった。



 しかし、よく見ると紋白蝶にしては、翅の形がオシャレだ。角にアールヌーボー調の切れ込みが入っている。
 しなしなしな~と、風にそよぎながら、あれよあれよという間に、シャガの花の一片になってしまった。



 翅の裏が薄クリーム色で、細かい胡麻斑(ごまふ)が入っている。まことシャガの花そのものである。
 …うぬも、ただのモンシロチョウじゃあるめぇ……
 と、荒獅子男之助が、言ったか言わずか。


追記:花供養(灌仏会)、花祭りの今日、お釈迦様には申し訳ないほんの地口の出来心で、シャガの花をクローズアップしてみたのですが、さて、シャガの花の漢字を調べたところ、“射干”のほかに“胡蝶花”という字を、国語辞典に見つけて驚いた次第。

追記2:ありがたや、その後の調べで、モンシロチョウではなく、ツマキチョウ(褄?端?黄蝶)らしい、ということが判明しました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする