籠城してはや幾日…曜日の感覚が最早なく、日々の天候で日にちを計る、東京都下郊外の陸の孤島に住まいする、令和ロビンソンクルーソーの物語。
4月2日、鈴蘭の新芽によろこぶ。地球温暖化の賜物か、成長が早く、
4月15日、慌てて写真を撮る。早くも鈴蘭らしく葉が巻いている。
新芽の時は、左側が早く出ていたのに、右側の成長著しく、
4月18日、先に芽生えたものを凌駕しつつある自然界の不思議な法則。
ふと思いつきで、左を千松、右を鶴千代、と名付ける。
関東好み、というものがあって、20世紀の着物界のブランドで、私が常々憧れていたのは、竺仙、そして矢代仁だった。
1990年代の忘年某日、とある百貨店の売出しで廻り合ってしまったのが、竹に、ふくら雀のこの縮緬(ちりめん)の染め名古屋帯である。見るなりガビーーーーンと、赤塚不二夫の漫画の描き文字様の衝撃が心の臓に走った。
昭和のころ、吉祥寺の近鉄百貨店の呉服売り場で、参考商品として展示されていた帯の柄に瓜二つ…!! だったからである。
とてもとても好きだったので、売り場に行くたび、穴の開くほど見つめていたのだ。値段が提示されてなかったところから類推するに、江戸時代の型染の復刻版だったのかもしれない。
地に格子柄が方眼状に入り、さらによく見ると、竹の菅が、心持ち、立涌(たてわく)状の縞に配されている。
垂れと手が、太鼓と別の色取りになっていて、その意匠も気に入った。
塩沢絣地(しおざわがすりじ)に、紫濃淡の滝縞(たきじま)が後染め(あとぞめ)になっている着物に合わせて、いつだったか…2月の文楽公演、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)に出掛けた。帯揚げは、ペルシャ風の更紗(さらさ)柄が地紋で織り出された、香色と空色が、白い一本のよろけ線で染め分けになっている、オールラウンダー。
竹に雀は、皆様ご存知、言わずと知れた仙台藩54万石、伊達家の家紋である。
伊達騒動を題材にした先代萩ものは、歌舞伎の悪役・仁木弾正を新解釈で描いた、山本周五郎原作で、映画では長谷川一夫主演『青葉城の鬼』、NHK大河ドラマ『樅の木は残った』のほうが、後期昭和生まれには刷り込みが早い。
1980~1990年代の歌舞伎界は、いま思うと、各家の女形の大全盛期だったので、御殿勤めの、絢爛豪華たる武家の妻女たちが総出演する御殿の場の面白かったこと(憎まれ役の迫力の女性を立役の役者が演じる、そのギャップもまた可笑しすぎたりもして)、手に汗握る熱演の凄まじかったこと…手に取るように目に浮かぶ。
そしてまた、立ち廻りの緊迫感が手に汗握る、対決・刃傷の怖かったこと…
なんと言っても、毒殺の恐れがある若君のために、乳母(めのと)が御膳に手を付けさせず、茶釜でご飯を炊く、まま炊きの場の、千松と鶴千代君のいじらしかったこと。
先代萩は、あまりにも面白く見どころ満載の芝居なので、通し上演されることも多く、また、女形の活躍どころである、先代萩や加賀見山は、藪入りのお休みの日に御殿勤めのお女中たちが観劇のお目当てにした番組だそうだから、3月にかかるのが習わしだったそうで、縮緬の帯は冬に着なきゃ…と思っている自分は、先代萩に当てて歌舞伎座へ締めて行ったことはあまりなかった。
神谷町びいきの私は、成駒屋三代揃い踏みの先代萩が観たかった。
福良雀は児太郎丈の紋でもあったのだ。