奈良のむし探検

奈良に引っ越しました。これまでの「廊下のむし探検」に倣って「奈良のむし探検」としましたが、動物・植物なんでも調べます。

植物を調べる ヒョウタンゴケ

2022-04-04 17:02:56 | 植物を調べる
先日(3月14日)、家の近くを歩いていたら、草地になった畑にコケがいっぱい生えていました。後日(3月28日)、同じ場所に行ったときに、少しだけ採取してきました。2種あったのですが、そのうちの1種を調べてみようと思いました。



3月14日に見たコケはこれです。先端が丸いものもありますが、細長いものもあるので、最初、別種だと思いました。でも、後で調べてみると、細長いのは若い株のようです。



3月28日に見たコケがこれです。先端の丸いものがほとんどですが、少し細長いものも含まれています。色も赤っぽくなっているものが見られました。


コケの名前を調べようと思って、「原色日本蘚苔類図鑑」の図版をぱらぱら見ていったのですが、どれもよく似ていて、どこを見たら違いが分かるのかさえよく分かりませんでした。やはりコケはギブアップかなと思ったのですが、ふと、本棚を見ると、関根雄次著、「日本産蘚類の検索」(豊饒書館、1982)という本が目につきました。昔、古本屋で何の気なしに購入した本でした。でも、絵が一つもなく、検索表と説明だけなので、初めから使うのを諦めていました。最近、昆虫の検索をずっとしてきたので、少しは使えるかもと思って、使ってみることにしました。普通、検索表は目ー(下目ー上科)-科ー(亜科)ー属ー(亜属)-種・・・というように分類順に調べていくのですが、この本の検索表はなぜかいきなり「属の検索」から始まります。初めに全体を11のグループに分けて、次いで属の検索に入ります。さらに、各属には種の検索表があります。

そこで、今回もこの順で調べていくことにしました。検索の結果、Fグループ(頂蘚類、葉身細胞は短く、少なくとも縦の長さは横の長さの4倍以下で、葉縁は全辺か、または葉先部などに不明瞭に小歯がある)に入ることが分かり、その中のヒョウタンゴケ属 Funaria のヒョウタンゴケ F. hygrometricaだろうということになりました。初めて検索をしたので甚だあやしいのですが、検索表の各項目を写真で確かめていこうと思います。初めはまずグループの検索です。

①ふつう植物体の第1次茎または第2次茎がたち、その頂端あるいはその近くに生殖器官ができている(頂蘚類)
②葉縁には葉舷がない
③葉には、はっきりと中肋がある
④葉の先端はとがっていないか、またはとがっていても短くて芒状にならない
⑤葉身中央部の細胞は、一般に短く、細胞の縦の長さは横の長さの4倍以下である
⑥葉縁は、全辺か、または葉先部などにわずかにあるいは不明瞭に小歯がある

この6項目を調べるとFグループであることが確かめられます。この順に書いていくといいのですが、同じ写真を何度も使うことになるので、写真ごとにまとめて出すことにします。



最初は全体像です。下に葉がまとまっていて、その先端から長い蒴柄が伸びています。その先端には内部に胞子ができる蒴があります。検索表の1次茎というのは根から直接伸びた茎のことで、2次茎は1次茎から別れた茎のことを言います。この場合は1次茎の先端から長い蒴柄が伸びています。こういう場合を頂蘚類と言います。いずれにしてもこの項目はよさそうです。



次は葉を実体顕微鏡で撮った写真です。②の葉舷は葉の縁にある細胞で内部の細胞と著しく形が異なる細胞です。通常の舷細胞は細長いのですが、一部が刺状になることもあるそうです(コケ植物 用語集による)。次の写真の方が分かりやすのですが、葉の縁には特に変わった細胞はありません。従って、②はOKです。③の葉に中肋があるというのもOKです。また、⑥の葉縁が全辺であるというのもよさそうです。



これは生物顕微鏡で撮った写真です。②は先ほども出た葉舷ですが、この写真の方がないことがよく分かります。④については、中肋が先端まで伸びて先端が多少尖っています。スギゴケ属などでは先端が非常に伸びているので、それとは違うことはよく分かります。



⑤の細胞の長さですが、まちまちでどれを測ってよいのかよく分かりませんが、特に細長いというのが見つからないので、たぶん、4倍以下というのでよいのだと思います。これで、Fグループに到達しました。次は属の検索です。種の検索も1項目だけなので一緒に書いておきます。

⑦葉身細胞は平滑である
⑧葉は一般に幅広く、広卵形、長楕円形またはへら形をしている
⑨茎は主として直立している
⑩葉にはラメラはない
⑪葉は広卵形あるいは広楕円状披針形である
⑫茎は5mm前後で短い。中肋は頂下で消えるか短く伸出する
⑬葉はあまり凹まない。葉は根生状にみえる。葉身細胞はふつう長方形ないし6角形。蒴は一般に西洋梨型で上方がふくらんでいる ヒョウタンゴケ属 Funaria
⑭葉は全辺。中肋は頂達。蒴にはふつう縦皺がある。胞子径15~21μ ヒョウタンゴケ F. hygrometrica

これも同様に調べていきます。



⑦は葉身細胞が平滑かどうかですが、マミラという細胞表面が凸レンズ状に膨れることはないという意味です。⑧、⑪辺りは葉の形なので、たぶん、これでよいのではないかと思います。⑩のラメラはスギゴケ属に見られるような薄板状の突起が何枚も葉の表面にあるということはないという意味です。⑩については、葉は全辺、中肋は頂点にまで達しています。⑬もOKでしょう。



⑨はOK。⑫については茎がどこからどこまでかよくは分かりませんが、根と蒴柄を除くと、たぶん、3mm程度だと思われます。それで⑫はOKです。⑬もよいでしょう。



⑫は上でも書きましたが、中肋の先端は短く伸出しているのでOKです。



⑬の葉身細胞はだいたいは長方形です。



蒴の形は西洋梨型で上方が膨らんでいるので⑬もOKです。



⑭の蒴の縦皺は蒴が枯れてくるとはっきりすると思うのですが、若い蒴でも矢印で示したように縦皺が見えているので、これのことかなと思っています。ということで、これだけ確かめると、ヒョウタンゴケ属のヒョウタンゴケになります。合っているとよいのですが・・・。

ついでに各部の名称も付けておきました。若い蒴は帽という帽子をかぶっています。



これは蒴の先端を拡大してみたところです。帽が取れた先端にはさらに蓋がかぶっていて、この蓋が取れると、内部に蒴歯というのが見えてくるはずです。もう少し時間が経つと、蒴歯やら内部の胞子やらが見えてくるのではないかと思います。



これはぐっと若い蒴です。こんな細長い形をしています。帽の中に水が入っているのか泡が見えます。

ということで、コケの検索を始めて試してみました。「原色日本蘚苔類図鑑」にも属の検索表が載っているのですが、代表的な10数属についてだけ載っているので、あまり役に立ちません。というのはどれが代表的なのかよく分からないからです。平凡社の「日本の野生植物 コケ」にも検索表が載っているとのことですが、絶版で手に入りません。蘚類については、しばらくはこの検索表で調べていこうと思っています。


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2 コメント

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Unknown (uni2)
2022-04-04 21:39:48
コケ(蘚類)の同定を本格的にしようと思ったら、これほどの確認が必要なのですね。なんというハードルの高さでしょう(T_T)
それよりも、これほどの同定の過程、解説をされているサイトを見たことがありません。脱帽です。大変勉強になりました。ありがとうございました。
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Unknown (naranomushi)
2022-04-04 22:03:54
いや、まだあやしいですよ。もう少し修行を積まないと・・・。これからも時々出しますのでよろしくお願いします。
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