Netflix史上最強のカルト作とも言われた『The OA』の打ち切りから4年。ブリット・マーリング、ザル・バトマングリによる待望の新作は、彼らの奇想をストリーミングプラットフォームのアルゴリズムに乗せようとする苦心作だ。少女探偵ダービー・ハートはテック企業創業の億万長者に招かれ、アイスランドの人里離れた高級ホテルにやってくる。そこには各界著名人のほか、かつて彼女とコンビを組んでいたアマチュア探偵ビルの姿があり…アガサ・クリスティ風の密室殺人ミステリーと平行して、ドラマはダービーとビルの別離のきっかけとなった過去の殺人事件を描いていく。ジャンル不定の難解さにNetflixすら匙を投げた『The OA』の打ち切りを経た故か、マーリングとバトマングリは一定レベルに作品を留める必要があったのかもしれない。無難が過ぎる語り口は全7話の放映枠すら持て余し気味だ。筆者は途中まで本作が『The OA』のシーズン3と信じてやまなかったくらいである。
何より困ったのは本筋となる現在パートよりも、回想パートの方がこの上なく魅力的な事である。車、アメリカの乾いた荒野と空、惹かれ合う男女…エマ・コリンにはまるでマーリングが憑依したかのような親和性とポップさがあり、『The OA』の別ユニバースからやってきたようなハリス・ディキンソンとの相性は格別である。マーリング、バトマングリの奇才が思う存分、真価を振るったのがPeakTVであるなら、彼らがその才能を制限された本作は一時代の終焉と言ってもいいだろう。
『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』23・米
製作・監督 ブリット・マーリング、ザル・バトマングリ
出演 エマ・コリン、ブリット・マーリング、ハリス・ディキンソン、アリス・ブラガ、ジョアン・チェン、クライブ・オーウェン
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