長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』

2017-12-07 | 映画レビュー(へ)

ノア・バームバック監督作に出てくるのは“大人になりきれない大人”だ。
自分が思っていたよりも早く大人になってしまった事の悲劇と喜劇。大人げない父親と、大人にならざるを得なかった長男を描くブレイク作『イカとクジラ』。その関係を母親に置き換えた次作『マーゴット・ウェディング』。そして本作(原題Greenberg)では孤独な中年ベン・スティラーが人生の路頭に迷う。
バームバックの人物批評は相変わらず厳しい。弟夫婦の留守を預かるためにNYからLAへ出てきたロジャー・グリーンバーグは心を病んでしまった人だ。抗うつ剤が手放せなく、些細な事でカッとなってしまう。衝動的で思い込みが強く、出会ったばかりの若者に「昔の音楽はいいぞ」とウンチクをたれる。日課は企業への書面クレームだ。この双極性障害の描写はかなりきめが細かく、スティラーは心が空洞になってしまった人の悲哀に仄かなユーモアを込めて演じており、素晴らしい。

バームバックのキャリアを語る上で欠かせないのが本作で初タッグとなるグレタ・ガーウィグの存在だ。
時に冷徹とも言えるバームバックの作風にガーウィグがフェミニンで優しいヒューマニズムを持ち込んでいる。何気ない日常会話をスケッチしてきたマンブルコア映画の女王がバームバックの文学的タッチにもたらした影響は彼女に施された演出からも明らかだ。一回り以上年の離れたロジャーとガーウィグ演じるフローレンスが不器用な恋におちる。ハッキリ言って恋愛には向かない彼をフローレンスは無償の優しさで受け入れていく。

 バームバックとガーウィグはその後
『フランシス・ハ』『ミストレス・アメリカ』を発表。ガーウィグもインディーズ映画の旗手として監督デビューを果たし『レディ・バード』が賞レースを席巻。バームバックも作品に軽やかなタッチを得る事になる。


『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』10・米
監督 ノア・バームバック
出演 ベン・スティラー、グレタ・ガーウィグ、リス・エヴァンス、ジェニファー・ジェイソン・リー、クリス・メッシーナ、ブリー・ラーソン


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