長内那由多のMovie Note

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『クロティルダの子孫たち 最後の奴隷船をさがして』

2023-01-23 | 映画レビュー(く)

 奴隷制廃止がさけばれて久しい1860年の頃、クロティルダ号はアフリカから多くの黒人を連れてアラバマ州の河口モービルで人身売買を続けていた。その5年後、ついに奴隷制が廃止。多くの黒人は帰ることもままならず定住し、やがてそこには“アフリカタウン”が興る。奴隷主のミーアーは違法行為の証拠であるクロティルダ号を湿地帯のどこかに焼き払って沈め、今なおこの地域一帯は一族が支配する重工業地帯だ。アフリカタウンにはこの工場から排出された化学物質によるものと見られる癌患者も少なくない。そして2018年、ついにクロティルダ号の残骸が発見される。

 2022年にリリースされた多くの作品と同様、『クロティルダの子孫たち』(=原題Descendant)も歴史を参照し、現在(いま)を語るドキュメンタリーである。マーガレット・ブラウン監督は劇中、人々が“歴史”と“物語”という言葉を発する瞬間を何度も撮らえていく。先祖伝来のこの粗末な土地に暮らす自分たちはいったい何処から来たのか?謝罪や賠償よりも、先ず彼らが求めているのは歴史を解き明かし、自らのアイデンティティを獲得することだ。“歴史”と“物語”が並列されれば、そこに“映画”は興り得る。アカデミー長編ドキュメンタリー賞では地質学的スケールのラブストーリー『ファイアー・オブ・ラブ』と最後まで争う事になりそうだが、より“2022年的”なのは本作だろう。

 TVシリーズ『アトランタ』のシーズン3では、DNA鑑定技術が発達により自身の先祖が奴隷主であった事が発覚、奴隷の先祖を持つ黒人をはじめ社会から制裁を受けるというエピソードが描かれていた。だが子孫たちに求められているのは断罪や憎しみではない。アフリカタウンの人々がクロティルダ号船長の子孫と出会うシーンは本作のハイライトだ。彼らは穏やかに相対し、共に歴史を見つめ合う。物事の奥底に隠された事実を直視してこそ、人と人は共存できるのではないか。オバマ元大統領率いるハイヤー・グラウンドのプロデュースによる本作は、観る者に静かに問いかける重要な1本だ。


『クロティルダの子孫たち 最後の奴隷船をさがして』22・米
監督 マーガレット・ブラウン

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