長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』

2024-11-21 | 映画レビュー(く)

 2000年に大ヒットを記録し、アカデミー作品賞にも輝いた『グラディエーター』は直後から続編制作が囁かれてきたが(主人公マキシマスは死んだというのに!)、紆余曲折24年を経てついに完成した。マキシマスとルッシラ王女の息子ルシウスが王位簒奪者の手を逃れ、遠くアフリカの地で成長。十数年の時を経て、グラディエーターとしてローマへ帰還する…歴史に詳しい観客は前作に続きまるで考証のないハリウッド史劇に目くじらを立てたくなる所だろうが、ドラゴンの出ない『ゲーム・オブ・スローンズ』くらいに思って大目に見てほしい。リドリー・スコットがVFXを用いて現代に復活させた『グラディエーター』『キングダム・オブ・ヘブン』『ロビン・フッド』ら史劇大作群なくしてGOTはなかっただろう。昨年も超大作『ナポレオン』を手掛けたばかり、御年86才の“サー”・リドリーは多くの映画作家が年齢と共に歩みを緩めていく中、どうやらますますせっかちになっているようだ。前作と大差のないランニングタイム148分に3本のストーリーラインを交錯させる手際は良いものの、24年前にはあった歴史大作としての時に緩慢なまでの悠然さ、風格は失われ、良くも悪くも『ゲーム・オブ・スローンズ』以後の軽さと速さの史劇映画である。

 前作でアカデミー主演男優賞に輝いたラッセル・クロウは前年『インサイダー』、翌年『ビューティフル・マインド』と3年連続ノミネートを達成する絶頂期にあった。さすがに往時のクロウには叶わないと見込んでか、今回は3人の主人公が立てられている。『アフターサン』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたポール・メスカルは、『ノーマル・ピープル』『ロスト・ドーター』『異人たち』で見せた危うさと繊細さの性格演技そのままメインストリームに殴り込む頼もしいパフォーマンス。まるでローマ彫刻のような顔立ちと、映画のスケールに負けない低く轟くような声音で大役を全うしている。メスカル演じるルシウスの敵となる将軍アカシウス役ペドロ・パスカルが相応しい貫禄を湛えているのは嬉しい限りで、長物を持たせればハリウッド最強の無双となるだけに今回は剣のみ装備だ。

 そしてルシウスを導く謎の奴隷商人マクリヌス役のデンゼル・ワシントンは性格俳優の本領を発揮している。今年69才、野卑な役でこそアクの強さを出してきたデンゼルに老齢の枯れが差し始め、史劇に相応しい舞台俳優ならではの立ち回りは今年のオスカーレースで3度目の受賞を狙うには十分だろう。

 デヴィッド・スカルパの脚本は前作の遺産を意識し過ぎたきらいはあるものの、独裁と圧政、腐敗に堕ちたローマに威光を取り戻そうと謳うテーマ性は観客の政治的イデオロギーを問わず、訴えるものがある(クライマックスでローマ軍は文字通り2色に分かれる)。パンとサーカスに湧く衆愚へ向けたリドリーの厭世感はやや控えめで、“力と名誉”を謳った前作の栄光に倣う本作は、作品不足の2024年ハリウッド最後のメインストリーム大作映画として、王道の貫禄を見せつけてくれるのだ。


『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』24・英、米
監督 リドリー・スコット
出演 ポール・メスカル、ペドロ・パスカル、デンゼル・ワシントン、コニー・ニールセン、ジョセフ・クイン、フレッド・ヘッキンジャー

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