日本劇場公開中止の報せが出た時は「ついにブラピ、ジョージ・クルーニー主演作でもスクリーンにかからない時代か…」と惜しむ声がSNS上で多く聞かれたが、いざAppleTV+での配信が始まれば誰も話題にしていない感がある『ウルフズ』。宣伝を一切しないAppleだから仕方がないと言えばそれまでだが、配信スルーを嘆くだけではなく、数百円程度の月額費を払って見届けてやるのも映画ファンの矜持というものだろう。
勘違いしないでほしいのは、劇場未公開で終わるような駄作ではないことだ。『スパイダーマン:ホームカミング』に始まるシリーズ3部作を大成功に導いたジョン・ワッツは、おそらく考えうる限りの創作的自由を得て脚本・監督を兼任。シワが目立つようになったブラピとクルーニーに比べればオースティン・エイブラムスの扱いが随分と小さく、作品全体に若々しさは乏しいものの、ラーキン・サイプルの魅惑的な夜間撮影を擁する本作はオールドスタイルが心地いいのだ。近年のメジャー大作にはない落ち着いたトーンはとりわけ巻頭15分が出色。大作でもなければフランチャイズでもない、ウェルメイドな“普通の娯楽映画”の居場所がストリーミングへ追いやられてしまったのが現在である。
あらゆる難題に対処する影の始末人が偶然、1つの現場に居合わせたことから起こる騒動は軽妙洒脱。息のあったブラピとクルーニーに頼り過ぎな感はあるが、時折、加齢ギャグもかます2人の掛け合いは代え難い(あぁ、2人とも還暦を超えているとは!)。優れたプロデューサーでもある彼らがこのアベレージの娯楽映画の重要性を認識していることがよくわかる。晴れて続編制作も決定。AppleはTVシリーズといい、娯楽メディアが持つ原初的な楽しみに自覚的である。
『ウルフズ』24・米
監督 ジョン・ワッツ
出演 ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、オースティン・エイブラムス、エイミー・ライアン
※AppleTV+で独占配信中※
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