長内那由多のMovie Note

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『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い』

2022-04-08 | 映画レビュー(う)

 2013年11月21日から2014年2月23日まで繰り広げられた“マイダン革命”の様子を克明に描き、2015年度のアカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた本作が今再び注目を集めている理由は言うまでもないだろう。ロシアによるウクライナ侵攻である。配給するNetflixは本作をYoutube上で無料公開しており、多くの人々がこの戦争の背景、ウクライナの人々の不屈の闘争心を知るハズだ。

 EUへの加盟を公約に当選したヤヌコヴィッチ前大統領が方針を転換、ロシアへすり寄る政策を打ち出す。後にロシアへ亡命した事からも明らかなように、彼はプーチン大統領の息がかかった新ロシア派の傀儡だったのだ。これに反発したウクライナ国民は首都キエフでデモを決行。瞬く間に数万人規模へと膨れ上がったそれを、ヤヌコヴィッチはベルクトと呼ばれる武装警察を投入して弾圧を図る。

 『ウィンター・オン・ファイヤー』はキエフ市民が攻防の真っ只中で撮影したスマートフォンの映像に圧倒される。近代都市が戦場と化す恐怖と混乱。民衆の怒り、そして自由と民主主義を勝ち取ろうとする崇高な決意と高揚…異様な熱気に満ちたそれを時系列、位置関係を明らかに整理し直した編集技術は2015年の最高峰の1つだ(ちなみにこの年のオスカーで編集賞を獲得したのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だった)。その迫真性はポール・グリーングラスらによるドキュドラマタッチでは及ばない戦争映画としての躍動、求心力まで備えており、不謹慎ながらアクション映画としての動的魅力すら感じてしまった。広場を占拠した市民に対し、ベルクトが強行突破を試みる場面は本作の翌年にリリースされた『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン6第9話『落とし子の戦い』を彷彿とさせる。今般のウクライナ戦争でも多くの衝撃的な映像が拡散されているが、映像テクノロジーの進歩は今後、戦争映画のリアリズムを変えることになるだろう。

 本作を見れば2022年の現在、数的優位を誇るロシア軍を相手に奮戦するウクライナの人々の勇気の源泉が伺い知れるハズだ。遠い島国で家畜のように安穏と暮らす者たちがさもリアリストを気取って降伏論を説くが、とんでもない。侵略に対する降伏は虐殺と弾圧を呼び、永久に主権を失うことを指す。彼らは今もなお戦い続けている。


『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への戦い』15・米、英、ウクライナ
監督 エフゲニー・アフィネフスキー

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