60年代を舞台にした本作は美しいプロダクションデザインと、当時の撮影を模したカメラによるムーディーでメロウなメロドラマであり、テッサ・トンプソンをはじめとする出演陣も素晴らしい。とりわけトンプソンはこれまでの勝気なイメージから一転、良家のお嬢さん役をキュートに演じて改めてその巧者ぶりを見せつけた。戦女神にゴーストの入れ替わったアンドロイドまで実に多様な女優である。
『シルヴィの恋』は一見ノスタルジックで、ややスローなラブロマンス映画であり、本作の真の魅力を知るためには1つの理解が必要だ。実際に60年代には本作のような黒人文化を描いたラブロマンス映画は存在しなかった。ここではジャズをはじめとする黒人音楽が華々しく描かれ、ヒロインはTVプロデューサーとして成功を収める。搾取され、描かれることのなかった黒人文化とその歴史が、白人の作った60年代映画のフォーマットを使って再現されているのだ。差別の歴史とは生まれくるハズだった多くの文化の芽も摘み取った上にあるのだ。
『シルヴィ 恋のメロディ』20・米
監督 ユージン・アッシュ
出演 テッサ・トンプソン、ウナムディ・アサマア
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