目も眩むような忙しさに飛び交う罵声と怒号。そして垂涎ものの料理の数々…いわゆる“厨房モノ”の定番演出を私たちはまるで戦争映画を見るかのように愛してきたワケだが、躍動するカメラと矢継ぎ早の編集が生み出してきた快楽の裏には想像を絶するパワハラがあり、近年ではTVシリーズ『The Bear』や映画『ザ・メニュー』がその実態を解き明かしてきた。ロンドンの高級料理店のディナータイムを90分間ワンショットで撮った『ボイリング・ポイント』は、先達に劣らず神経衰弱ぎりぎりのストレスフルな職場だ。羊の焼き具合もわからないカスハラな客に、自分勝手でマイペースなホール係、現場をかき乱すだけのオーナーの娘、意思伝達の不行き届き…“沸騰”というタイトルとは対照的に、映画のテンションは暗く冷たく、ロングテイクが必ずしも映画の魅力に寄与しているとは思えない。映画に楽しさを求める観客の口には合わないが、レストラン業界の様相を垣間見ることのできる1本ではある。
『ボイリング・ポイント/沸騰』21・英
監督 フィリップ・バランティーニ
出演 スティーブン・グレアム、ジェイソン・フレミング、レイ・パシサキ、ハンナ・ウォルターズ、マラカイ・カービー、ビネット・ロビンソン、アリス・フィーザム
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