長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『僕らの世界が交わるまで』

2023-11-27 | 映画レビュー(ほ)

 とどまる所を知らない俳優たちによる監督デビューラッシュ。今度は『ソーシャル・ネットワーク』『バツイチ男の大ピンチ!』などの個性派俳優ジェシー・アイゼンバーグが初監督作を発表だ。アイゼンバーグ自らが手掛けた脚本は当初、オーディオドラマとしての製作が予定されていたそうだが、A24やエマ・ストーンがプロデュースに加わることで長編劇映画として公開されるに至った。作家の個人性から映画を作ることの多いA24だが、今回は俳優アイゼンバーグのフィルモグラフィに連なるシニカルな人生洞察コメディとなっている。

 DV被害から逃れた親子を受け入れるシェルターを運営する母エヴリンと、YouTuberの息子ジギー。社会福祉と公共心を重んじる母、自分とフォロワー数にしか興味のない息子では会話が噛み合うはずもなく、その間にいる父親はまるで空気同然の扱いだ。『ストレンジャー・シングス』のフィン・ウルフハード演じるジギーは、wokeな同級生ライラのことが気になるが、ハッキリ言って地球環境にも人種問題にも経済格差にもサッパリだ。エヴリンは新たに保護した女性の子供がジギーと同じ年頃にもかかわらず、思いやりに満ちた青年であることに心打たれる。まったくウチの子ときたら…。

 他人の芝生は青く見え、人生はないものねだりの連続。そんなジレンマに陥った人間の狼狽を演じるジュリアン・ムーアほど可笑しく、哀しいものはない。アイゼンバーグは大女優相手にもしっかり芝居をつけている。ノア・バームバックの『イカとクジラ』で注目され、『カフェ・ソサエティ』などウディ・アレン映画で老齢のアレンに代わって主演し、近作『バツイチ男の大ピンチ!』では40歳の不惑を演じたアイゼンバーグ。そんなフィルモグラフィの持ち主だけに本作は冷ややかで、しかし人生を噛み締めてきた者ならではの慈しみのがあるのだ。


『僕らの世界が交わるまで』22・米
監督 ジェシー・アイゼンバーグ
出演 ジュリアン・ムーア、フィン・ウルフハード、アリーシャ・ポー
2024年1月19日よりTOHOシネマズ他、全国公開

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