2021年1月6日、バイデン新大統領当選の承認議事が行われていた連邦議会議事堂を、ドナルド・トランプに扇動された群衆が襲撃した。この前代未聞の事件によりトランプ支持者や議会警備にあたっていた警察官など、計5名の命が失われる事となった。アメリカ下院議会は残り2週間の任期となったトランプに対し弾劾決議を下し、それはバイデンが無事に就任してもなお上院での可決を睨んで多数派工作が進められた(結果、共和党の反対多数により否決される)。
この事件を受けてビデオメッセージを発表したのが元カリフォルニア州知事にして我らがシュワちゃんことアーノルド・シュワルツネッガーだ。その内容はこれまであまり語られることのない、衝撃的なものだった。シュワルツネッガーは第2次大戦の終結からわずか2年後の1947年、オーストリアに生まれる。当時の大人達はファシズムに加担した罪の意識に苛まれ、シュワルツネッガーの父もまたアルコールに溺れ、子どもたちに暴力を振るっていたという。
そんな幼少期を過ごしたからこそ、自身と周囲を守るためにあの鋼の肉体を手に入れたのだろう。大スターの赤裸々で、真に迫り、そして移民である自分を受け入れたアメリカを信じる偉大なメッセージに今一度、彼の足跡を振り返りたいという気持ちが募り、85年公開の本作を手にとった。84年に『ターミネーター』で世界的ヒットを飛ばし、87年には『プレデター』を控えるシュワルツネッガー全盛期の1本だ。
最近でも『ワンダーウーマン1984』がオマージュを捧げていたように、この時代ならではの大らかさが魅力だ。特殊部隊のコマンドーだったシュワちゃんは、かつて任務で転覆させた独裁者の報復によって愛娘(一世を風靡したアリッサ・ミラノ)を誘拐されてしまう。返還の条件は今再び南米へと戻り、親米政権をひっくり返す事だ。『エクスペンダブルズ』なら秒でやりかねないミッションだが、シュワちゃんは南米行きの飛行機から(パラシュートなしで)飛び降り、娘の救出へと向かう。タイムリミットは飛行機が南米に到着するまでの11時間だ。当時のシュワちゃんはオーストリア訛りが強く、台詞回しに難があったため短いフレーズのパワーワードを連発。それが強烈なインパクトと笑いを生んでいる。
そしてこの時代のアクション映画と言えば法外な火薬量である。対人地雷で建物はあんな吹っ飛び方はしないが、見た目に気持ち良ければそんな事はどうでもいい。シュワちゃんは重火器をノーエイムで腰だめ。人を殺して決め台詞を放つ。「蒸気を抜け」ヒドい(笑)
続けて『ターミネーター2』を再見し気づいたのだが、当時のシュワちゃん映画には彼の筋肉を余す所なく収めたヌードシーンというか、サービスカットが必ず盛り込まれている。無名時代は同性愛者向けの雑誌でグラビアを飾り、日銭を稼いでいたこともあったそうだ。そんな経歴ゆえか、州知事になってからのシュワちゃんは性的マイノリティへの支援にも熱心だったという。彼は共和党だが、真に信じるのはアメリカの民主主義なのだ。偉大なスターによる偉大なポップコーンムービーである。
『コマンドー』85・米
監督 マーク・L ・レスター
出演 アーノルド・シュワルツネッガー、アリッサ・ミラノ、レイ・ドーン・チョン、ダン・ヘダヤ、ヴァーノン・ウェルズ
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