長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『LOVE』

2020-06-15 | 海外ドラマ(ら)

 『40歳の童貞男』『無ケーカクの命中男』等で知られるジャド・アパトウ製作のラブコメディ。LAに住むちょっと冴えない男ガスとちょっと性格にナン有りな女ミッキーの恋愛を描く。

 2時間の劇映画ではどうにもドラマチックだったりロマンチックが過ぎてしまうジャンルだが、1話30分のドラマシリーズなら出会いから交際を始めるまで、そこからさらに関係が発展していく様をじっくりと描く事ができる。何より本作ではそれぞれに生活があり、仕事があり、友人がいる日常を描いており、恋愛が日々の営みと地続きにあることを僕たちに教えてくれる。次第に登場人物が自分の友人のように愛しく思えてきてしまう”見心地”の良さがいい。

 アパトウ監督のラブコメディではボンクラな主人公が身の丈以上のイイ女をうっかり落としてしまい、精神的成長を促されていく事が多い。本作ではそんな既存のラブコメディの定型を反転させているのが新機軸だ。ガスは見た目は冴えないが(ウディ・アレン似)心根の優しい男で、友達想いのイイ奴だ。方やミッキーはハスッパでセクシーだが、物にも人にも依存体質なちょっとメンドくさい女の子で、彼女の成長がドラマの主軸になってくる。ハスキーボイスが親しみやすいジリアン・ジェイコブスがミッキーを気さくに好演。親しみも煩わしさも同居させて、ガール・ネクスト・ドアな魅力がある(劇中のファッションがすごくオシャレで可愛い!)。

 最新ツールはトレンディドラマの必須アイテムでもある。本作では度々、スマートホンでメッセージのやり取りやInstagramが使用されるが、30を過ぎたオッサンの筆者からすると、既読やSNSの更新にやきもきさせられる現代の恋愛は地獄だなぁとしか思えない(笑)

 彼らがそこそこ仕事をしながら、いつも楽しく遊んでいるのがいい(ガスの「主題歌のない映画に勝手に主題歌をつける」という遊びは笑える)。でもどこかで「自分の人生、このままでいいのか」という漠然とした不安がつきまとっている。ミッキーのルームメイトのバーティは30を過ぎてオーストラリアからLAに上京してきたが、仕事もそこそこだし、特に人生の伴侶に選ぶような恋人もいない。ガスは映画製作の道を志していたが、我慢弱い性格が祟って今は子役の家庭教師に甘んじている。ミッキーは自分の性格を何とかしたいが、ずるずると流されてしまう。
 S3E7で登場するある人物のセリフが強烈だ。“30を過ぎて新しい仕事を始めるには遅く、離婚するには遅くい”。ここで『LOVE』が実は30代のモラトリアムを描いたトレンディドラマである事がわかる。これからの人生に迷える30代の男女こそより好きになれる作品ではないだろうか。


『LOVE』16~18・米
製作 ジャド・アパトゥ、他
出演 ポール・ラスト、ジリアン・ジェイコブス、クローディア・オドハティ、アイリス・アパトゥ、ブレット・ゲルマン

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