長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『僕の巡査』

2022-11-20 | 映画レビュー(ほ)

 2017年のクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』で献身的な演技を見せてはいたものの、MCU『エターナルズ』ではネームバリューを活かした賑やかしに過ぎず、続く『ドント・ウォーリー・ダーリン』では監督オリヴィア・ワイルドとの交際が先立ってしまったハリー・スタイルズは、本作『僕の巡査』でようやく演者としての真価を発揮する事となった。1950年代イングランドはブライトンで巡査を務めるトムに扮したスタイルズは、キャラクターの複雑な葛藤に誠実に向き合う好演だ。トムは何処へ行くにも恋人マリオンと一緒だが、そこに美術館で働くパトリックが加わり、やがて3人の愛憎は数十年の時を超える事となる。

 ベサン・ロバーツの原作を元にマイケル・グランデージ監督は50年代と90年代を往復し、パトリックの介護をきっかけに老境の3人が再び巡り合う様を描く。マリオンが見つけたパトリックの日記にはトムと愛し合った日々が事つぶさに綴られていた。トムはその関係をひた隠してマリオンとの偽りの夫婦関係を続け、パトリックは愛する人を奪ったマリオンに嫉妬心を募らせる。そしてマリオンは…同性愛が犯罪とされた時代とは言え、愛のために他者を傷つけずにはいられない彼らの姿に人間の持つ加虐性を思わずにはいられない。スタイルズは警官という職業の持つ男性性によって自身を守ろうとするトムの弱さを演じ、パトリック役デヴィッド・ドーソンとの相性もバッチリ。ラヴシーンでは美しい指先の表現に見入ってしまった。エマ・コリンは注目を集めた『ザ・クラウン』シーズン4のダイアナ役とは全く異なる個性を見せ(発声からまるで違う)、その才能がフロックでなかった事を証明している。

 『ブロークバック・マウンテン』でも描かれた“男2人の釣り旅行”という男の身勝手さに対しての批評は甘く、ジーナ・マッキーという名女優を得ながらマリオンの解放にはいま一歩踏み込みが足りなかったのが惜しまれる。


『僕の巡査』22・米、英
監督 マイケル・グランデージ
出演 ハリー・スタイルズ、エマ・コリン、デヴィッド・ドーソン、ライナス・ローチ、ジーナ・マッキー、ルパート・エヴェレット

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