『愛がなんだ』

どうにも納得がいかない。自分の恋愛観に全く相容れない映画だ。上映中、怒りのあまり何度も声が出そうになった。主人公テルコ（キュートな岸井ゆきの）はマモルに恋をする。猫背でちょっと暗い、ヒョロっとした男（成田凌）で、華奢できれいな手に惚れてしまったのだ。それ以来、生活の全てがマモちゃん中心になってしまう。彼からの連絡を心待ちにし、呼び出されれば何時だろうが飲みに付き合う。そんな友達以上、恋人未満の関係がしばらく続いた後、ついにセックス。それでもマモルはテルコのことが好きではない。カノジョ気分でテルコが世話を焼けば冷たく、あっさりと突き放した。

上映中、僕はマモルの思いやりのなさがどうにも許せなかった。テルコが自分に好意を抱いているのをいい事に、気分でセックスをする。自分の領域を侵されると否応なしに冷徹な態度を取る。それでいて本命のスミレの前では自分を出せず、テルコをダシにする。こんな自己愛の強い奴のどこがいいんだ。

テルコの自己肯定の低さにも腹が立った。ここまでされてなぜ平気でいられるのか。テルコは特段、熱中する趣味もなければ仕事にもこだわりがなく、恋愛以外は日々をボンヤリと過ごすだけで、この御時世にお嫁に行くことを夢見てすらいる。だからマモルに搾取されてしまうのだ。しかし、こういった精神的DV下にある女性は決して少なくないのではないか。

さらにテルコの後輩仲原が輪をかけて自己肯定の低い奴でイライラしてしまった。誰かれ構わず「っス」とヘリ下った態度で、意中の葉子から都合のいい男として扱われる。どうやら写真家を志しているようだが、こんな自己肯定の低いアーティストなんているだろうか。いや、特に日本においては学校や職場、あらゆる場面の“弄り”によって常にヘリ下ってしまった人は少なくない気もする。

僕ってどんな恋愛してきたっけ？

振り返れば幸運なことに自己肯定できた素敵なアーティストばかりリスペクトして、好きになれていたなぁと幸せな記憶が蘇ってきた（美化しすぎか？）。でもあれだけ片思いの炎が燃え上がったのに、フラれてみればすぐ次に行っていたような気がする。恋をしている状態の自分が好きだっただけかも知れない。いずれにせよ、我が身を何度も振り返ってしまったのだからいい映画なのだ。リアリズムで進んできた映画が突如ミュージカルになったり、時空を飛び越えたりと自由闊達な演出も楽しい。今泉力哉監督、今後も要注目である。

『愛がなんだ』19・日

監督　今泉力哉

出演　岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、穂志もえか