長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ビール・ストリートの恋人たち』

2019-03-24 | 映画レビュー(ひ)



『ムーンライト』でアカデミー作品賞を制したバリー・ジェンキンス監督の最新作。ジェームズ・ボールドウィンによる小説“If Beale Street Could Talk”=『ビール・ストリートに口あらば』の映画化だ。アカデミー賞ではジェンキンス自らが手掛けた脚色、『ムーンライト』に続く登板となったニコラス・ブリデルの作曲、レジーナ・キングの助演女優賞の3部門でノミネートされ、見事キングがオスカーに輝いた。

 前作以上にポエティックな美意識に貫かれており、濃厚な愛の気配に酔いしれた。舞台は1970年代のNY、幼馴染のティッシュとファニーは定められたかような恋におち、互いをまるで自身の片割れの如く慈しみ、愛し合っていく。だがファニーがいわれなき罪で投獄、彼の子を身籠ったティッシュの愛が試される。新人キキ・レインとステファン・ジェームズは近年稀に見るピュアで美しいスクリーンカップルであり、カメラは2人ににじり寄って愛の眼差しを絡め合う。『アリー/スター誕生』『ファースト・マン』とアメリカ映画の新世代監督達が相次いで人間に密着し、肌の質感や息遣い、そして人間性へ濃密に迫ろうとした現象が興味深い。

 『ムーンライト』同様、現実の差別問題に取り組みながらグラフィカルな美化をされている事に批判もあるようだが、僕はむしろブラックムービーの多様化として高く評価したい。2人はあらゆる困難に立ち向かうも冤罪を晴らす事は叶わず、多くの黒人達と同様、罪を認めて減刑に訴えるしか自由を得る道はなかった。原作者ボールドウィンが“アメリカに生きる黒人全てのルーツ”と謳うビール・ストリートは迫害と差別の道程でもあり、本作もまた激しい怒りを胸に秘めた映画なのだ。今年のアカデミー賞では本作の他、『ブラックパンサー』のライアン・クーグラーら新世代黒人監督とその先駆的存在であるスパイク・リーが同時に評価されたのが新たな転換点のように思え、印象深かった。

 ヒロインの母を演じたレジーナ・キングは短い登場時間ながらも場をさらい、とりわけプエルトリコに乗り込む後半の気迫は観る者を圧倒する(これぞ助演の仕事)。また『アトランタ』のペーパーボーイ役でおなじみブライアン・タイリー・ヘンリーが中盤で見せる名演も忘れ難く、ジェンキンスの俳優演出の巧みさを再認識した。オスカーでの一件以来、ライバル格とも言えるデミアン・チャゼル監督といい、アメリカ映画界の若手作家の充実ぶりに唸らされた次第である。



『ビール・ストリートの恋人たち』18・米
監督 バリー・ジェンキンス
出演 キキ・レイン、ステファン・ジェームズ、レジーナ・キング、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ディエゴ・ルナ、ペドロ・パスカル、デイヴ・フランコ

 
 

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