長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ショート・ターム』

2020-03-27 | 映画レビュー(し)

 人と人との距離を見つめた優しい映画だ。デスティン・ダニエル・クレットン監督の実体験を基にした本作は短期保護施設で働く介護士が主人公だ。心に傷を負った少年少女達と共に暮らす彼らも家に帰れば人生がある。チーフとして仕事に情熱を注ぐグレイスは同僚でもある恋人メイソンとの間に子供を身ごもり、心が揺れる。かつて自分を虐待した父が出所するとの報も届いた。皮膚に爪を立て、自傷してしまう。私は人の親になれるのだろうか?真心のこもった演技を見せるブリー・ラーソンは本作で頭角を現した。

 メイソンも戸惑いながらグレイスとの距離を縮めようとする。映画は人が勇気を振り絞って手を差し伸べる瞬間や、愛を告げられた瞬間を見逃さない。施設の内と外というルールの異なる世界を対比して、人間関係の根源を描き出そうとしているのだ。いつしか観る者も周囲を見渡し、愛しい人への想いを募らせずにはいられなくなるだろう。

 だが美談では終わらない。星条旗をまとった少年を追いかける煌めくようなラストシーンには今を生きる事の困難も込められているのである。


『ショート・ターム』13・米
監督 デスティン・ダニエル・クレットン
出演 ブリー・ラーソン、ジョン・ギャラガー・Jr.、ケイトリン・ディーヴァー、ラミ・マレック、ラキース・スタンフィールド
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『テイク・シェルター』 | トップ | 『誰よりも狙われた男』 »

コメントを投稿

映画レビュー(し)」カテゴリの最新記事