長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ソー ラブ&サンダー』

2022-08-02 | 映画レビュー(そ)

 今やハリウッドの稼ぎ頭であるMCUをおちょくった底抜けバカ映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』で大ブレイクを果たし、監督に役者に大忙しのタイカ・ワイティティ。彼の人を喰った陽性のオフビートコメディが思いの外、ハリウッド映画と相性が良かったのかも知れないが、さすがに『ジョジョ・ラビット』でオスカーまであげてしまって、ちょっと持て囃し過ぎやしないか。『フリー・ガイ』の悪役演技で見せた“野放し”ぶりに嫌な予感はしていたが、再び雷神ソーと組んだ本作『ソー ラブ&サンダー』はひとりよがりなギャグが尽く上滑りし、劇場はほとんど氷の惑星ヨトゥンヘイムのような寒々しさだ。これまで抜群のコメディセンスを発揮してきたクリス・ヘムズワースはどうにも冴えず、せっかく『アベンジャーズ エンドゲーム』のクライマックスで合流したガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々もカメオ出演に終わって実に勿体ない。さらにMCUの成功を聞きつけてジェーン・フォスターを再演するナタリー・ポートマンが、そのキャリアで数少ない最良のスクリーンパートナーであるヘムズワースとのケミカルを再現できなかったのも痛手だろう(『マイティ・ソー』『マイティ・ソー ダーク・ワールド』を見直してみてほしい。彼らの輝くような共演にあなたの頬も綻ぶハズだ)。当然、アクション映画としてのキレなど本作に望むべくもない。

 聞けば前作でノリノリの大怪演を披露していたグランドマスター役ジェフ・ゴールドブラムの出演シーンは全てカットされたらしく(なんてことだ!)、代わりに気を吐くのがゼウス役のラッセル・クロウ。その巨体を有効活用し、デタラメなアクセントで楽しげに演じている姿はほとんどドリフの雷さまコントで、ここで映画はようやく活力を得ている。MCUフェーズ4はミッドクレジットシーンで登場するゲストにビッグネームが起用される傾向にあり、今回はまだ日本で馴染みの薄いAppleTV+から『テッド・ラッソ』のエミー賞俳優ブレット・ゴールドスタインが登場している(そこにもここにもロイ・ケント!)。

 このから騒ぎの中、テッサ・トンプソンが常にクールでセクシーな魅力を発揮して観客の目を惹きつけるものの、これではあまりに出番が少ないだろう。そしてMCUだろうが、オスカーノミネート作だろうが常に全力投球のクリスチャン・ベールが悪役ゴアに扮し、まるで死神のような痩身で並々ならぬ迫力。映画をかろうじて救っている(モノクロームで描かれる“影の国”でそのヴィジュアルが際立つ)。

 ヘムズワースの若さと将来性を思えば、アベンジャーズ初期メンバーである彼1人がMCUを継続するのは納得できる話だが、フェーズ4全体の仕上がりが鈍っている今、ワイティティの“ユルさ”を作品の売りにする事はできないだろう。そろそろテコ入れが必要な時期だ。


『ソー ラブ&サンダー』22・米
監督 タイカ・ワイティティ
出演 クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、クリスチャン・ベール、テッサ・トンプソン、ラッセル・クロウ、ブレット・ゴールドスタイン、カット・デニングス、タイカ・ワイティティ

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