長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ブレッドウィナー』

2019-09-25 | 映画レビュー(ふ)

『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー』で知られるアイルランドのアニメーションスタジオ“カートゥーン・サルーン”の2017年作。前2作に引き続きアカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされた。

アイルランドの民間伝承にモチーフを取ったこれまでの作品とは違い、デボラ・エリスによる原作小説を映画化した本作は2001年のアフガニスタンが舞台だ。当時はイスラム原理主義組織タリバンの支配下にあり、特に女性に対する差別的な社会が形成されていた。女性は人前で肌を見せる事は許されず、頭からブルカと呼ばれる布を被り、1人で外を歩く事も許されない。もちろん勉学などもっての外だ。これまで同様の牧歌的画調ながら、描かれる暴力描写の数々には足がすくんでしまう。信仰を笠に着る事で容易く暴力性を増すミソジニーには恐怖を覚えた。

主人公は幼い少女パヴァーナ。ある日、タリバンによって父親が連れ去られた事で一家は困窮。彼女は家計を支えるため、長かった髪を切り、少年として働きに出る事となる。
男装を決意したパヴァーナが鏡へ向かうシーンに注目して欲しい。彼女の意を察した姉が無言で断髪を手伝う様にこの行為が如何に常態的に行われてきたのかがよくわかる。実写でも出来る題材ではあるが、これまでファンタジー作品を手掛け、“ポストジブリ”と目されてきた同スタジオにとって新境地と言える演出力であり、僕は片渕須直監督の傑作『この世界の片隅に』を彷彿した。

そして僕達は2001年のアフガニスタン紛争を知っているからこそ、ジェット機が空を飛び、戦争の気配が忍び寄る終幕に胸を引き裂かれずにはいられないのである。一見、解決する結末だが、後にはさらなる悲劇が待ち受けており、その現実に僕は後ろめたさを覚え、ただただ頭を垂れるばかりであった。


『ブレッドウィナー』17・カナダ、アイルランド、ルクセンブルク
監督 ノラ・トゥーミー
出演 サラ・チャウドリー、 ソーマ・バティア、 アリ・バドシャー 
 
 

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