多くの映画が劇場公開されることなくストリーミングの広大な海に放流されていく昨今、映画ファンにもそんな潮目を読む根気が必要だ。1992年生まれ、今年32歳のルディ・マンキューソが監督、主演、脚本、音楽、振付を手掛けたデビュー作『ミュージック』は、新たな才能に心踊らせれる。冒頭、若い男女がダイナーで会話をしている。男は上の空気味で、彼女の話が頭に入っていない。彼にとっては周囲の雑音が気になって仕方ないのだ。人の気配や厨房の雑音…次第にそれはリズムを刻み、音楽となって人々が一斉に踊り始める。主人公ルディは周囲の環境音がリズムやメロディとして認知される“共感覚”の持ち主なのだ。マンキューソの半自伝である本作は、そんな才能を持った彼の目線から世界を描く青春ミュージカル映画である。YouTuber出身のマンキューソはフラッシュモブを基調に、その演出はバリエーション豊富。バジェットが大きくなればさらなる現代ミュージカルの快作を撮ってくれるのではないか。
ブラジル系が多く住むというニュージャージーはアイアンバウンド地区の景色や、マンキューソの実の母親マリアまで担ぎ出したブラジル系移民2世のメンタリティは目新しく、レストランで修羅場に陥ったルディがジャズピアニストと“会話”する場面など、ラブコメディとしてのウィットにも富んでいる。そして好感度抜群の相手役カミラ・メンデスからも目が離せない好編だ。
『ミュージック 僕だけに聴こえる音』24・米
監督 ルディ・マンキューソ
出演 ルディ・マンキューソ、カミラ・メンデス、マリア・マンキューソ
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