長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『女と男の観覧車』

2019-08-29 | 映画レビュー(お)

今のところ“最後の”ウディ・アレン監督劇場公開作である。ミア・ファローの娘ディラン・ファローへの虐待疑惑が再燃したアレンは#Me too旋風に呑まれる形で近年の製作パートナーであるAmazonから契約を打ち切られてしまったのだ。アレン映画への出演経験がある女優達も相次いで「出演するべきではなかった」と声明を発表した。92年時点で証拠不十分により無罪判決が出ているにも関わらず、御年83歳の巨匠は事実上キャリアを絶たれてしまったのである。

そんな一連の騒動を思いながら2017年の本作を見ると、人生に対する彼のシニカルな視線はいつも以上に味わいがある。舞台は1950年代のコニーアイランド。元舞台女優のジニーはアルコールに呑まれて職を失い、今はウエイトレスとしてわずかな稼ぎを得ていた。依存症時代に知り合った夫ジムとは共依存的関係性だが、愛情はない。そんな時、劇作家を目指す青年ミッキーと出会い、激しい恋におちてしまう。

ジニー役にはケイト・ウィンスレット。『レボリューショナリー・ロード』『とらわれて夏』『リトル・チルドレン』と人生に疲れた人妻役はもはや十八番。熟れて落ちそうな色気に『欲望という名の電車』を思わせる神経症演技が加わり、充実のパフォーマンスである。

夫の連れ子キャロライナが転がり込んできた事から始まる悲劇と皮肉が従来のアレン節を超えた迫力を放つのは、ひとえに名撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの功績と言えるかもしれない。コニーアイランドの美しい青空、眩いネオン、登場人物の心情に寄り添う青と赤のコントラスト…12年の『ミッドナイト・イン・パリ』以後、名手ダリウス・コンジが担当してきた撮影は特に時代モノで美しいライティングを見せてきたが、それでも雇われ仕事の域は出ていない印象だった。ところが、前作『カフェ・ソサエティ』と本作という“50年代モノ”で名匠ストラーロを起用したウディは近年になく映画的快楽を追及している(プロダクションデザインの豪奢さといい、Amazonの潤沢なバックアップがあってこそである)。ウディ映画をストラーロが凌駕しているとも言えなくないが、新興スタジオの台頭も手伝い、巨匠には作風の変化が訪れていたのではないだろうか。

ジニーはこう言う「あたしの不幸は自己責任」。今頃、ウディはものすごくシニカルで、可笑しく、そしてたまらなく哀しいホンを書いているのではないだろうか。


『女と男の観覧車』17・米
監督 ウディ・アレン
出演 ケイト・ウィンスレット、ジャスティン・ティンバーレイク、ジュノー・テンプル、ジム・ベルーシ

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