長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バリー・シール アメリカをはめた男』

2019-08-26 | 映画レビュー(は)

驚愕の実話だ。1980年代、旅客機パイロットだったバリー・シールはCIAによって南米偵察飛行のパイロットにリクルートされる。その航路に目をつけた南米の一大麻薬カルテル“メデジン・カルテル”はバリー・シールを使ってドラッグの密輸を画策。かくしてシールはCIAの暗黙の了解の下、カルテルの航空輸送網を築き上げていく事になる。

こんな事が起こり得るのか?
ダグ・リーマン監督の演出はテンポも快調。この嘘みたいな本当の話をコメディとして見せていく。シールのキャラクターは全くの無個性に描かれているが、そんな事はどうでもいい。偉大なる大スター、トム・クルーズによって映画には有無を言わさぬ駆動力が生まれ、シールがただただ次から次へと押し寄せる危機に飲み込まれ、走り抜けた事がよくわかる。シールが増え続けるドラッグマネーでダミー会社を作れば町のあちこちには雇用が生まれ、隠し切れなくなった大金を庭に埋めれば、そこからは以前に埋めた金が出てくる始末だ。FBIのみならずDEAら各捜査機関がハチ合わせる捕り物はほとんどコントである。リーマンはアダム・マッケイの『マネー・ショート』以後、確立されたバラエティ的ポップさで当時の国際情勢をわかり易く解説。ホームビデオ風の手持ちカメラ撮影も時代色を出していて楽しい。

だが、主眼はシールの仰天デタラメ人生ではない。彼がCIAの命令によって南米ニカラグアの親米反政府組織コントラに武器を流した事が、後にイラン・イラク戦争中に米が極秘裏介入したイラン・コントラ事件へと繋がり、さらには9.11~イラク戦争の遠因となってしまうのだ(途中、シールがブッシュJr.とすれ違う場面が出てくる)。リーマンはバリー・シールの嘘みたいな人生を通じて絶対に笑ってはいけないアメリカの対外政策を描いているのである。これはCIA工作員ヴァレリー・プライムがイラクに大量破壊兵器はないとレポートしたため政権によって身分をリークされた“ヴァレリー・プライム事件”を題材とする『フェア・ゲーム』の姉妹編と言っても良いだろう。本作は間接的に“イラク戦争映画”であり、散々笑った後、そのエンディングに僕らは笑顔が引きつるのである。


『バリー・シール アメリカをはめた男』17・米
監督 ダグ・リーマン
出演 トム・クルーズ、ドーナル・グリーソン、サラ・ライト、ジェシー・プレモンス、ケイレヴ・ランドリー・ジョーンズ

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