長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』

2020-02-01 | 映画レビュー(ろ)
 フレッド(セス・ローゲン)は才気煥発ユーモアあふれる文章と、ガッツに満ちた体当たり取材で人気のフリージャーナリスト。鬱陶しい髭と、おそらく3年以上は着古しているウインドブレーカーに細丈のカーゴパンツというもっさい格好のオッサンだ。ひょんな事から彼は次期大統領候補と目される国務長官シャーロット(シャーリーズ・セロン)と出会う。なんと彼女は10代の頃にシッターをしてくれていた近所のお姉さんだったのだ。甦る淡い初恋(そしてイタい思い出)。シャーロットはフレッドの才能を見込んで専属のスピーチライターに抜擢する。

 これまでもジェームズ・フランコ、ジョゼフ・ゴードン・レヴィット、ローズ・バーンからコメディ俳優としての新境地を引き出してきたセス・ローゲン。常にヨゴレ役を一手に引き受け、どんな俳優と組んでも最高のケミカルを発揮する稀有な才能の持ち主である彼が、今度はシャーリーズ・セロンから近年にないキュートな魅力を引き出している。

 若い頃から政治にまい進してきたシャーロットのポップカルチャーは90年代で止まったまま。『ゲーム・オブ・スローンズ』なんて全エピソードのあらすじをググって見たと言っている有様だ。フレッドがあの手この手とレクチャーしていく様が楽しい。日本の政治家を見ていると想像できないだろうが、ポップカルチャーという教養はアメリカの政治家に欠かせない“厚み”だ。オバマ前大統領が毎年末にその年の映画ベストを発表しているが、ほとんどシネフィル級である(まぁ、オバマの文化レベルが高過ぎるというのもあるけど)。

 ジョナサン・レヴィン監督は『50/50』での難病のレヴィットを捨てる恋人の描写にホモソーシャルな悪意を感じて好きになれなかったが、今回は『ペンタゴン・ペーパーズ』の才媛リズ・ハンナの脚本を得て、ローゲン共々シャーリーズに諸手を挙げてるといった風だ。

 特に散々ハッパをキメて踊り狂ったシャーリーズが先頃のアメリカ、イランの一触即発を思わせる危機を乗り越える場面で映画は笑いの瞬間風速値に達する。“Long Shot”を日本語にすれば、さしずめ“見込みナシの高値の花”。才色兼備、次期大統領候補、おまけにシャーリーズ・セロンときたら来世でも手が届くかわからない超ロング・ショットである。そんな彼女がこんな痴態(?)を演じるのがたまらなく可笑しく、そして愛おしいのだ。

 脇には大統領役で『ベター・コール・ソウル』のボブ・オデンカークが登場し、もはや名優の扱いである(ホントだ、ケヴィン・コスナーに似てる!)。『サクセッション』から出張してきたようなゲスのメディア王を演じているのはアンディ・サーキスだ。

 男だから外に出て働き、稼ぐといったジェンダーの役割化に悩むようなシーンはハナから存在せず、愛する人を懸命に支えようとするフレッドの姿に、やはり映画やドラマばかり見て、身の程知らずにもロングショット狙いの恋愛ばかりをしてきた筆者はなんだか励まされたのであります。ハイ。


『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』19・米
監督 ジョナサン・レヴィン
出演 シャーリーズ・セロン、セス・ローゲン、ボブ・オデンカーク、オシェア・ジャクソン、アンディ・サーキス、アレクサンダー・スカルスガルド
 

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