長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ホームカミング』

2019-04-20 | 海外ドラマ(ほ)

 

アラン・J・パクラ、シドニー・ポラック、ジョン・フランケンハイマーら往年の巨匠の陰謀スリラーを彷彿とさせる不穏なトーンだ。しかし『ホームカミング』はなかなかその全貌を現さない。異様なカメラワーク、異様なスコア、異様な画角…何かが起こっているが、何が起きているのかさっぱりわからないのだ。そして毎話、クリフハンガーにもならない放り出すようなエンドクレジットに得も言われぬ不安感が募る。1話30分というのもこの手のジャンルには珍しい異質なフォーマットだ。

主演は連続ドラマ初主演となるジュリア・ロバーツ。かつてはその陽性の魅力がジャンルとミスマッチしていたが、そんな彼女も51歳。『クローサー』『8月の家族たち』『ワンダー』等を経て全盛期とは異なる円熟に到達したと言っていいだろう。本作ではラミ・マレックの出世作『MR.ROBOT』で知られるサム・イスマイルが全エピソードの監督を務める事を条件に主演を承諾、エグゼクティブプロデューサーまで買って出る力の入れようだ。昨今の彼女は自身のネームバリューを利用して若手の発掘に精力的である。


物語はロバーツ扮するカウンセラー、ハイディ・バーグマンが復員兵支援施設「ホームカミング」で働く2018年と、田舎のダイナーでウェイトレスを務める4年後を何度も往復していく。彼女は復員兵の中でもとりわけウォルター(ステファン・ジェームズ)と交流を深めていくが、4年後にはなぜか「ホームカミング」での記憶を一切なくしている。いったい何が起きたのか?


【以下、ネタバレ!】

ドラマの大きな特徴が時制によって異なる画面の画角だ。”過去”となる2018年は画角が大きく(16:9)、”現在”を示す4年後は狭い(1:1)。だが物語の主軸は2018年にあり、見ていくうちに"フラッシュフォワード”(物語の先を見せる手法)として4年後が描かれている事に気付くハズだ。

ドラマが大きく動くのは第8話。復員支援施設「ホームカミング」の正体は政府と癒着した製薬会社による実験施設であり、兵士達のPTSDを薬物によって”抹消”する事で再び戦地へ送り出していたことがわかる。良心の呵責を覚えたハイディはウォルターと共に既定値以上の薬物を摂取、記憶を消して施設を抜け出す。ハイディが全ての記憶を取り戻した瞬間、画角は1:1から16:9へと押し広げられる。画角は時制ではなく、記憶の齟齬を表していたのだ。

歪んだ行政の一端を担ってしまった者の罪悪感と悔恨。これはアメリカのイラク戦争に対する後ろめたさであり、悲しいかな今日の日本では切実さを持って迫ってくるテーマでもある。ドラマ終盤はハイディのキャラクターがぐっと前にせり出す。わずかな良心をよすがに一体何が出来るのか?

シーズン2も確定したらしいが、ジュリア・ロバーツは早々に離脱を表明した(後にサム・イスマイルも続いた)。映画女優ゆえか、物語が完結した以上ヒットドラマの宿命であるシリーズ延命には興味なかったのだろう。これ以上ない幕切れを見ればそれも納得である。


『ホームカミング』18・米

監督 サム・イスマイル

出演 ジュリア・ロバーツ、ボビー・カナヴェイル、ステファン・ジェームズ、シェー・ウィガム、シシー・スペイセク

※Amazonプライムで独占配信中※


 

 

 


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