長内那由多のMovie Note

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『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』

2018-09-20 | 海外ドラマ(あ)
※このレビューは物語の結末に触れています※

実在の事件を基にしたアンソロジードラマ『アメリカン・クライム・ストーリー』の第2弾。今回のテーマは世界的ファッションデザイナー、ヴェルサーチの暗殺事件だ。

1997年、マイアミの邸宅前で銃弾に倒れたヴェルサーチ。彼を殺したのは既に4人を殺害していた連続殺人犯アンドリュー・クナナンという男だった。クナナンは警官隊に包囲された後、自殺を遂げたため動機は未だ藪の中である。ドラマはモーリーン・オースの著書を基に独自の解釈で構成されている。

シドニー・ルメット作品を彷彿とさせた社会派ドラマの第1シーズンから一転、前半はシリアルキラーの凶行をつぶさに追う実録サスペンスとして緊張感が貫かれている。ダレン・クリスが怪演するクナナンは一見、頭脳明晰な好青年として映るが、息を吐くように嘘をつき、他人の痛みに無関心な典型的サイコパスだ。男娼として年配のクローゼットゲイに近づき、金品を横領。ドラマでは被害者が性的嗜好の発覚を恐れ、通報をためらったことも事件拡大に一役買ったと言及されている。警察は当初、ゲイ同士の諍いとして事件を軽視し、セレブであるヴェルサーチが殺されるまで捜査に本腰を入れなかった。

ドラマは犠牲者のひとりひとりを敬意を持って描く事で、90年代当時のセクシャルマイノリティが置かれていた孤独と断絶を浮かび上がらせている。中でもフィン・ウィットロックが演じた海軍士官ジェフのエピソードは悲痛だ。セクシャルマイノリティを排除する軍規が彼を追い詰め、軍人一家で育った彼のアイデンティティを破壊した。カミングアウトを決意するジェフとヴェルサーチが並列された第5話は事件の酷さが際立ち、やり切れない。

後半では事件以前に遡り、クナナンの生い立ちが描かれていく。フィリピン系ハーフである出生、変わり者と色眼鏡で見られた青春時代、アメリカンドリームを強く信奉しながら債権詐欺に手を染め、国外逃亡した父との確執…決して平坦ではない人生だが、では被害者とクナナンを分けたのは一体何だったのか?作り手の視線がやや同情的過ぎるように感じた。

むしろ印象に残ったのはヴェルサーチのパートナー、アントニオ・ダミコの顛末だった。長年、連れ添ったパートナーでありながら一切の権利を認められることがなかった彼を演じるのは何と歌手のリッキー・マーティン。自身もゲイであることをカミングアウトしているマーティンはそんなダミコの悲痛に誠意を持って向き合っており、味わい深かった。

 エミー賞では作品賞、ライアン・マーフィーの監督賞、ダレン・クリスの主演男優賞他、計7部門に輝いた。次回はハリケーン・カトリーナをテーマにしているとか。人的、物的被害のみならずアメリカ社会に大きな影響を及ぼした大災害を類まれな構成力でどのように描くのか、期待される。


『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』18・米
製作 ライアン・マーフィー
出演 ダレン・クリス、エドガー・ラミレス、ペネロペ・クルス、リッキー・マーティン
 

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