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当時36歳、眩いばかりのカリスマ性を持ったポール・ニューマン扮する“ファスト・エディ”がビリヤードで素人をカモっていく。テンポは快調、クールなモノクロにケニヨン・ホプキンスのクールなジャズも相まってハードボイルドな匂いが立ち込める。
だがウォルター・テヴィスの同名小説を原作とする本作はそんなジャンルの枠に収まろうとはしない。巻頭早々、映画は長い時間をかけてエディと宿敵“ミネソタ・ファッツ”の死闘を描いていく。ジャッキー・グリーソンがその巨躯を翻すミネソタ・ファッツはまるでダンスを踊るかのようにキューを操り、一糸乱れぬプレーを見せていく。一方のエディはその名に恥じぬ速打ちで圧倒、25時間に及ぶ激戦はついにファッツを追い詰める。常人には理解の及ばない、勝負に取りつかれた者達の異次元だ。
だが勝ったのはファッツだった。気付けの一杯がエディの自尊心と自己破壊願望を暴走させた。エディは大敗を喫し、シャバに放り出されてしまう。
テヴィスは83年に『クイーンズ・ギャンビット』を上梓、2020年にNetflixで映像化された。両作共に負ける選択肢を持たない、勝利に執念を燃やす者達の熱狂と自己破壊の物語だ。『クイーンズ・ギャンビット』の主人公ベス・ハーモンは天才的チェスプレーヤーでありながら、薬とアルコールを絶つことが出来ない。幾度も立ちはだかるソ連チャンピオンのボルゴフは彼女が乗り越えるべき内なる悪魔だ。
『ハスラー』にも前述のファッツやジョージ・C・スコットが怪演するバート・ゴードンが現れるが、最も主人公に影響を与えるのはパイパー・ローリー演じるサラだ。名前も素性も定かではなく、アルコールに溺れた彼女の自己破壊衝動はエディと共鳴し、2人は破滅的共依存関係となる。“合わせ鏡”である彼女が崩壊する時、エディはついにファッツに打ち勝つ心の強さを手に入れるのだ。
エディは言う。「アンタ、いい腕してるぜ」
ファッツが言った。「オマエもな」
喪失と勝利を経たエディの物語は25年の時を経て『ハスラー2』へと引き継がれる事となる。
『ハスラー』61・米
監督 ロバート・ロッセン
出演 ポール・ニューマン、パイパー・ローリー、ジャッキー・グリーソン、ジョージ・C・スコット
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