ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

PERFECT DAYS

2024-12-31 14:19:22 | 映画

アマプラで配信されている映画、

「PERFECT DAYS/パーフェクトデイズ」(ヴィム・ヴェンダース監督 日本・ドイツ合作 2023年)

を観ました。

これ、役所広司主演の日本が舞台の映画なのですが、ヴィム・ヴェンダース監督作品です。

ヴィム・ヴェンダースといえば「ベルリン・天使の詩」が有名ですね。

その監督がなぜ日本を舞台にした映画を撮ろうと思ったのか・・

たしかに舞台は日本で、俳優はすべて日本人なのですが、視点がやはり外国人というか、日本人ではない視点で語られていて、面白いなあと思いました。

登場人物は多くない。ほとんど役所広司の独り舞台です。

彼は都内の公共トイレの清掃作業員。毎朝暗いうちに起きて、軽自動車で都内の公共トイレをまわってひたすら掃除して歩くのです。

それが延々と淡々と描写されます。

その合間に古いフィルム式カメラで木々や陰影を撮影するのが彼の趣味。あと神社の境内に生えているひこばえを神主の許可を得て持ち帰り、小さな器に移して育てている・・

そんな何気ない変化に乏しい日常が丹念に描写されます。でも彼の表情は落ち着いていて、時おり浮かべる微笑がいい。

彼が住んでいるのはボロい木造アパートで持ち物はごくわずか。毎日同じルーティンをこなしながらも、毎日は同じではなく、出会う人々もそれぞれ。

後半に至ってようやく、彼の来歴がそれとなく示され、

なるほど、だから彼はトイレ清掃作業員になったのねと納得はいくのですが、

映画の主眼はそこではない。

タイトルにパーフェクトデイズとあるように、彼は「今ここ」を大事にして生きているのですね。

他者と関わらないわけではないけれど、干渉はしない。苦言も呈さない。相手のためにできることはする。そうした姿勢がカッコいいといえばカッコいい。

でも、これって男の映画よね、と思った。

そして、何より外国人から見たある種の「侍魂」でもあるのかと。

日本てこんな風に見えているのか、という発見もあります。

こんな風に生きながらも、満足できる一瞬一瞬を持っているって、幸せよね、とも思う。

私たちは他人と世界を共有しながらも、それぞれが違う層を見て、違う層で生きている、

そんなことを言いたいのかなあとも思います。

いろんなメッセージが込められた映画です。

でも、やっぱり男の美学的な映画だなあ、

というのが私の感想でした。

今年の締めにちょうどいい映画でした。

私も来年はパーフェクトデイズを目指して生きていこうっと。

(おいらはいつもパーフェクトだぜ!)

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『死はすぐそばに』アンソニー・ホロヴィッツ作

2024-12-29 20:16:26 | 

久しぶりに、アンソニー・ホロヴィッツのミステリー、

『死はすぐそばに』(創元推理文庫)

を読みました。例の探偵ホーソーンのシリーズです。

今回はご近所トラブルの末の殺人事件。

ご近所トラブルの描写から始まるのですが、これが実に細かく描写されていてね、

まるで事件が起きたロンドン郊外のリッチモンドの高級住宅街に迷い込んだ気分になります。

ご近所トラブルというのはどこでもあるのだなあ、というのが最初の印象で、非常に親近感を感じました。

ところが、このミステリー一筋縄ではいきません。

今回はこれまでのホーソーンシリーズとは一味違って、時系列が二つ存在するのです。

これ以上はネタバレになるので、書かないでおきますが、事件が起きた時系列とアンソニー・ホロヴィッツ自身がこのミステリーを書いている現在という二つの時系列が交互に登場してくるのですね。

つまり、物語というのは、作家が過去のどこかの時点で考えたものであると同時に、作家がこれを書いている現在という時系列も存在するわけで、ここではそれが同時進行的に語られるのです。

こう書くとすごく複雑で読んでいて混乱しそうなのですが、それを混乱させることなく見事に読者の前にさらけ出して、しかも肝心なところは上手に隠しておく、というアクロバティックな手法は見事と言う他ありません。

アンソニー・ホロヴィッツはまた新たな手口を思いついたのね、と思いました。

いつものように最後まで一気読みでした。

しかも、今回は登場人物たちの描写がものすごく細かくて、没入感が半端ない。

面白かったなあ。

最近あまり読書しなくなったのですが(なんせ目が悪くなってきて字がよく見えないので)、やっぱり本は面白いと改めて思いました。

ながーい年末年始に暇を持て余している人は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

 

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「侍タイムスリッパー」考

2024-12-19 22:34:47 | 映画

「侍タイムスリッパー」の余韻はまだ続いています。

思い出すたびに楽しく幸せな気分になるので、予告編だのYouTubeだのを繰り返し見ては、本当にいい映画よねえ、と独りごちてます。

この余韻、まだしばらく続きそうです。

いろんな人が多方面から解説しているので、今更言うことなど何もないのですが、

私が強く感じたのは、やはり日本人のモノ造りの素晴らしさですねえ。

あの映画は、江戸時代の侍が現代にタイムスリップした悲喜劇であると同時に、映画製作者の話でもあります。

そして、ここには、日本のモノづくりの原点が描かれていると思いました。

以前、ここでも紹介しましたが、世界で初めて飛行機を造った二宮忠八や、ゼロ戦を設計した堀越二郎、そしてはやぶさを宇宙に飛ばしたJAXAのスタッフ、この人たちに共通するもの、それが、

「職人気質」

なのではないか。

安田監督が語った映画のテーマとは、「真剣の重さを映画で見せる」だったといいます。

インタビューの中で、高坂新左衛門を演じた山口馬木也が、役どころの難しさについてこう語っています。

本物の侍高坂新左衛門が竹光の刀で切られ役をしなくてはならず、真剣の重さを知っている彼は竹光の刀をどう扱ってよいか戸惑う。でも、新左衛門が持っている真剣もまた映画の小道具であるわけで、しかも映画の中でさらに映画を撮っているという何重にも入れ子構造になったストーリーでもあるわけで・・

最後のシーンは劇中劇の真剣勝負という設定なのですが、実際にはもちろん真剣を使うことはできず、ここで使っているのも竹光の刀で、その刀を真剣の勝負に見えるように演じるのが役者であり・・

「ぼくはアーティストというより職人だと思います。」

と山口馬木也は言います。

高坂新左衛門そのもののような、山口馬木也という俳優のまっすぐさ、真摯さがうかがえます。

その通りの人なんだろうなあ、と思って、彼のあり方、生き方そのものに共感し感動しました。

そして「職人気質」というのは、あの映画を創った監督および俳優陣やスタッフすべてに共通する気質なのではないか、とも思いました。

折から、日本のお家芸である自動車メーカーの不祥事が相次いで日本人の職人気質はどうなったんじゃろかと危惧していましたが、

どっこいまだ生きてるぞ、と実感できました。

アーティストではなく「職人」というのがいいよねえ。

私たちは、アーティストだの芸術家だのを持ち上げがちですが、モノを造る職人に原点回帰するのがよいのではないかとも思いました。

もちろん、アーティストや芸術家は素敵だけど、

小さな町工場で自動車やロケットの部品を造り続けている職人たちもすごい。

職人であることの誇りがロケットを宇宙に飛ばす原動力であるように、

職人であると自称する役者の存在が、素晴らしい映画を生みだすのだと今回実感しました。

というわけで、劇場公開が続いている間、もう一回観にいきたいと思っています。

年末で忙しいのだけど、スケジュール空けられるかなあ~

でも、観に行くぞ!

 

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「侍タイムスリッパー」二度目。

2024-12-15 16:50:10 | 映画

「侍タイムスリッパー」を劇場で観たことはすでに書きましたが(11月26日の記事)、

今日、また観てきちゃいました。

劇場上映もそろそろ終わりそうなので、もう一度観ておきたくてね。

二度目はさらによかった!

ストーリーを全部知っていても楽しめる作品です。より楽しめるともいえます。

今回も劇場のあちこちから盛んに笑い声が上がっていました。私もずいぶん笑いました。

時代劇でこんなに笑ったのは初めてです。

笑うだけじゃなく、泣き所もけっこうあってね。

涙と笑いでぐちゃぐちゃになって、

でも、見終えた後に、実にほっこりと幸せな気分になるのです。

こんな映画はめったにない。

二度目なので、隅から隅までつぶさに観て堪能しました。

脚本、ストーリー展開、役者たちの台詞、すべてに無駄がなく、計算しつくされていて、

それでいて、計算された感がないところが凄い。

いやあ、今年最高の映画です。

太鼓判を押します。今年のベスト1だ!

劇中の台詞にもありますが、日本の今があるのは、あの時代を懸命に生き抜いてきた人たちのおかげなのだと痛感できます。

「日の本は良き国になったのじゃのう」という新左衛門の言葉はグッときます。

冒頭の写真は映画のパンフレットです。

安田淳一監督の映画にかける情熱が伝わってきます。

自主制作映画なので予算は限られている上、出演をお願いした福本清三氏(時代劇の切られ役で有名)が2021年に他界されるなど予想外の出来事も起きる中、とにかく脚本が面白いので映画を作ろうじゃないか、という人たちが集まって映画製作に乗り出します。

お金はないしロケ地も配役も決まらず期限だけが迫ってくる・・

山口馬木也氏(主役の高坂新左衛門)と富家ノリマサ氏(新左衛門の敵役)との出会いや、様々な困難を乗り越えてついに撮影終了するまでの経緯が、このパンフには事細かく書かれています。

ファンには必読の記録です。

劇場に行ったらパンフレットも買うべし。

8月からロングランされているという映画なので、あとどれくらい劇場上映されるかわかりませんが、

まだ観てない人はぜひ劇場に足を運んでください。

間違いなく幸せな気分を味わえます。

時代劇って、ユネスコ無形文化遺産に残すべき日本の文化だよねえ。

ああ、私が時代劇を勧める日が来るなんて(笑)

もいっかい観たい!

 

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