コロナの陣中見舞いにと友人が本を二冊送ってくれました。その一冊が、
「さよなら田中さん」(鈴木るりか著 小学館)
これ、12歳の少女が書いた短編集です。
出版されたのは中学生になってからだそうですが、とにかくびっくり。
語彙が豊富で、物語性があり、サクサク読める。次はどうなるのだろうと、読まずにいられない。
こういうのは天性の才能なんだろうなあ。
昔、某予備校で小論文の添削のアルバイトをしていたことがあって、その時にも感じたのですが、文才というのは天性の部分がかなりある。
必ずしも有名な進学校の生徒の論文がいいわけではない。むしろ型にはまっていて面白くない。
全く無名の高校の生徒が書いた小論文で、こちらをうならせるものに出会うと、やっぱり天性の文才ってあるのね、と思わずにはいられませんでした。
鈴木るりか、という作家はまさにそう。
もちろん、子どもの感性で書いたものなので、大人たちが絶賛するほどではないのだけど、それでも面白い、ぐんぐん読ませる、なるほどねえ、そうきたか、と思わせる、その力量は大したものです。
短編集ですが、田中花実という母子家庭の少女が主たる主人公で、この子のお母さんが傑作。
工事現場で働いている作業員で、大食いなのにガリガリに痩せている。母子家庭の悲哀といったものはなく、どんなことでもカンラカラカラと笑いとばしてしまう底力がある。
もちろんフィクションです。これをフィクションとして小説にしあげる力量は並大抵のものではない。
何より若さからくるエネルギーに満ちていて、読んでいるだけで、こちらもエネルギーをもらえる、そういう小説です。
子どもって本当にエネルギーの塊だもの、そこに文才が加わるとこうなるのね、というお手本みたいな本です。
どちらかというと、少し漫画チックかな。
「ちびまる子ちゃん」を彷彿とさせる人物造形、随所にちりばめられた笑いとその描写力。とにかく筆力がはんぱない。
花実ちゃんのお母さんが、落ち込んでる三上君にこういうシーンがあります。
「もし死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。そして一食くったらその一食分だけ生きてみろ・・そうやってなんとかでもしのいで命をつないでいくんだよ」
まさに名言です。
「ちびまる子ちゃん」を小説にしたような雰囲気でありながら、人生の悲哀、裏面まですくい上げて、さらりと書き上げてしまう力量はまさに脱帽ものです。