Netflixで見た映画
「ファーザー」(フロリアン・ゼレール監督 2020年イギリス・フランス合作)
が秀逸だったので紹介したいと思います。
主演はアンソニー・ホプキンス、とくればいい映画に決まっていますが、
なにしろこれ、サスペンスタッチ、ミステリータッチで物語が進行するので、
最初のうちは混乱します。
え、一体どうなってるの??
ぜひ前知識なしでご覧になることをお勧めしますが、
でも、感想を書くにはネタバレがどうしても必要なので、
ここからはネタバレです。
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実はこれ、アンソニー・ホプキンス演じるところの父親(アンソニー)の視点で描かれた
認知症の人の世界の話なのです。
登場人物はアンソニーとその娘、娘の夫と介護人の数人のみ。
脚本が秀逸なので、観客はいきなり認知症の父親の視点で周囲を見ることになり、
混乱の連続です。
冒頭、娘のアンに、恋人ができたのでパリに行くことになった、と告げられた父親、
しかし、その直後に、娘が別人に入れ替わり、その娘には夫もいて、彼はここは僕の家だとアンソニーに告げます。
アンソニーは最後まで自分がいるのは自分が所有しているフラットだと言い張るのですが、
そのフラットは、娘のアンのものだったり、入れ替わった娘のものだったりします。
さらに、パリに行くと告げた娘には夫がいて、彼もまたここは自分の家だと主張する、
と言った具合です。
一体、何が真実なのか、何が進行しているのか、娘は一人なのかそれとも二人なのか、
娘は結婚しているのか、それとも独身なのか・・
これらすべてがアンソニーの頭の中でごちゃごちゃになり、時系列もごちゃごちゃになっているので、
見ている側も混乱してきます。
けれども、見ているうちにこの家族に起きたことが次第に明らかになってきます。
娘は二人いて、一人は事故死したようです。
娘と父親の間にある距離感や愛情を、認知症の世界を通すことで切実に表しています。
こういう映画は他にも「明日の記憶」や「アリスのままで」などありますが、
この映画では、観客はいきなりアンソニーの世界に引きずり込まれる。
そうか、認知症になると、世界はこういう風に見えてくるのか、これは大変だ、と思わせられます。
何といってもアンソニー・ホプキンスがすごい、もう神がかっている。
すごい役者なのだなあと(今さらですが)思いました。
認知症はまだよそ事よ、と思っている人も、
サスペンス映画だと思って見てみるといいかもしれません。
ある日突然、あなたの周囲の人間が入れ替わったり、時系列がごちゃごちゃになったりしたとき、
きっとこの映画を思い出すことでしょう。