久しぶりに日本の映画を見ました。
「モリのいる場所」(沖田修一監督 2017年)
友人がいいよと言っていたので見てみました。
いい映画でした。
冒頭で、昭和天皇が美術展で一点の絵を鑑賞しながらこういうシーンがあります。
「これは何歳の子どもの描いた絵ですか」
それこそが熊谷守一の絵なのでした。
というわけで、「モリのいる場所」の「モリ」とは画家熊谷守一のこと。
熊谷守一は晩年の30年間、東京は豊島区の自宅から一歩も出ることなく、庭に生息する昆虫や草花、猫を観察しながら暮らしていたといいます。
そんな熊谷守一のある一日を描いたのがこの映画。
ゆったりとした時間が流れ、自然が豊かに息づいています。
「アリは左の二本目の足から踏み出す」とモリがいえば、自宅を訪れたカメラマンと助手が地面に寝転がってアリを観察する、といったシーンも。
このモリを演じているのが山崎務、そして奥さん役が樹木希林。さすがに映画界の大御所。二人とも存在感が半端ない。
モリの家には様々な人が訪ねてきます。モリはひたすら庭で過ごし、客の応対をするのが妻と姪。この出入りする客たちの様子も面白い。
庭に面してマンション建設が予定されており、その反対運動なども行われているようですが、モリはなりゆきまかせ。建設現場で働く人たちに大盤振る舞いしたりします。
なにしろ文化勲章を二度も拒否したという人です。
「そんなもんもらったら人がいっぱい来ちゃうよ」
そして、後半、モリの元に天の使い(死神)がやってきます。庭の池がついに宇宙と繋がった、外へ出て広い宇宙へ行ってみたいと思いませんか? と使いはいいます。すると、モリは言います。
「そんなことになったら、また母ちゃんが疲れちまいますから。それが一番困る」
そして、モリは奥さんに聞きます。
「もう一度人生を繰り返すことができるとしたら・・」
すると奥さんは言います。
「それは嫌だわ。だって疲れるもの」
でも、モリは言います。
「俺はなんどでも生きるよ。生きるのが好きなんだ・・」
最後のシーンは、新しく建設されたマンションの屋上から俯瞰したモリの庭。
それは住宅地の真ん中のほんのわずかなスペースなのでした。
こんなに小さなスペースでモリは30年ものあいだ、虫たちを観察しながら、ゆたかな時間を過ごしていたという、とても不思議な奇跡のようなお話。
外から見ると小さな庭も、その内側には豊かな自然が四季折々の姿を見せている。それはとりもなおさず、モリの心象風景でもあるのでした。
(実際にロケに使ったのは葉山にある古い家と庭なので、この庭のシーンは事実ではない。でも、モリの心象風景という意味では、庭はこの通りだったのでしょう)
沖田修一といえば「南極料理人」の監督。随処にユーモアがあり、クスリと笑わせます。
仙人のように暮らすモリとその妻の静かで時にユーモラスな生活。ただそれだけの映画ですが、余韻が残ります。
とにかく、庭がいい。虫たちがいい。猫もいい。