3番線に単行気動車が低く静かなエンジン音を響かせて入線してきた。13:31発1130Dは米沢行きだ。
GV-E400系は、ディーゼルエンジンの動力で発電した電力で主電動機を駆動する電気式気動車らしい。
2路線が乗り入れるターミナル駅、県北の小駅は高校生の登下校時だけちょっとした賑わいを見せる。
ふたつ目の越後下関を過ぎると、列車は朝日山地を縫うような荒川の渓谷に分け入る。
緑深い山、切り込む谷、赤い鉄橋とスノーシェッド、県境の赤芝峡は「日本の赤壁」と呼ばれる紅葉の名所だ。
紅葉にはまだ早いので、せめて “ふなぐち菊水” は赤いラベルの熟成吟醸生原酒を仕込んでおいた。
小国駅で110系気動車の下り列車と交換する。米坂線で県境を越える列車は日に6往復に過ぎない。
分水嶺の宇津トンネルを潜ると、列車は置賜盆地へと駆け降りていく。
今泉駅ではフラワー長井線とX字に連絡する。3方向への列車が一堂に会して駅が最も華やぐ時間だ。
収穫を待つ置賜盆地の西端をなぞる様に単行気動車は南下すると、最後は半円を描くように米沢に終着する。
おそらく午前中は雨を降らせた低い雲に覆われ、この日の米沢はどんよりしている。
濠端に「毘」と「懸かり乱れ龍」がはためいている。米沢に来たら松が岬公園を訪ねない訳にはいかない。
上杉神社の御祭神はもちろん上杉謙信公、春日山から会津そして米沢へ、景勝公が繋いできた祠堂を
明治の世になって仏祭を神祭に改め神社にしたものだ。
駅への寄り道戻り道、安土桃山期に創業したという「東光」の小嶋総本店を訪ねたのだけど、
流行り病の関係で現在は16:00close、残念。今夏は純米大吟醸 “洌” を家呑みで愉しんでいる。
福島行きの普通列車までは40分と少々、気持ちばかり米沢牛を味わおうと駅前の牛鍋屋に吸い込まれる。
おあつらえ向きの「ちょい呑みセット」を択んで、キンキンに冷えた生ビールに喉を鳴らす。
柚子をたっぷり絞ったら、山葵を少々とみょうがをのせて米沢牛ステーキが美味。
9月の声を聞いて、東光の “ひやおろし” が出ていたので迷わず一杯、豊かな味わいの秋あがりなのだ。
秋の郷土料理は “芋煮”、ゴロゴロと里芋、米沢牛にネギとキノコとこんにゃくと、醤油ベースが美味しい。
勘定を済ませたら改札口まで小走りで、山形の秋を凝縮して愉しんだ米坂線の旅の終わりだ。
米坂線 坂町〜米沢 90.7km 完乗
悲しみ2(too)ヤング / 田原俊彦 1981