ふたつ目の越後下関を過ぎると、列車は朝日山地を縫うような荒川の渓谷に分け入る。
緑深い山、切り込む谷、赤い鉄橋とスノーシェッド、県境の赤芝峡は「日本の赤壁」と呼ばれる紅葉の名所だ。
紅葉にはまだ早いので、せめて “ふなぐち菊水” は赤いラベルの熟成吟醸生原酒を仕込んでおいた。
もともと日本酒を好んで飲むことはなかった。
それでも呑み鉄の旅をするようになって、もっとも沿線の風景に溶け込むのは地酒だと気がついた。
気動車の揺れに身をまかせて、カポッとやる度に、酒には個性があることを知ったのだ。
小国駅で下り列車と交換する。米坂線で県境を越える列車は日に6往復に過ぎない。
分水嶺の宇津トンネルを潜ると、列車は置賜盆地へと駆け降りていく。
終着駅に着いたら、米沢牛と芋煮をアテに一杯やりたい。
さらば恋人 / 山本潤子