日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 月山貞一 Sadakazu Katana

2017-03-15 | 
刀 月山貞一


刀 月山貞一

 文久頃の、伸びやかな造り込み。地鉄 は小板目肌が良く詰んで小杢が交じり無地風にはならずに綺麗に肌が起ち、潤い感に満ちている。互の目に小丁子交じりの刃文が、あまり揃わずに連続している。だが良く観察すると、四つほどの互の目が単位となって連続しているのが判る。刃縁に小沸が付いた匂主調の焼刃は明るく冴え冴えとし、足長く射す。帽子も調子を同じくして乱れ込み、先に沸が付いて掃き掛けて返る。綺麗な備前伝である。月山というと、綾杉鍛えを思い浮かべるが、このような備前伝を得意としている。

短刀 長舩家助 Iesuke Tanto

2017-03-14 | 短刀
短刀 長舩家助


短刀 長舩家助正長元年

 室町初期の家助。正長は応永の次であり、まったく応永備前と言ってよい出来。杢目を交えた板目鍛えの地鉄も、応永杢と言い得る綺麗な杢目が連続しており、映りの立つ平地に地景によって杢目が浮かび上がる。刃文は逆がかる腰開き互の目に小互の目、尖り刃などが交じり、帽子は浅く乱れ込んでごく浅く返る。匂主調の焼刃は、所々に小沸が付いて明るく、刃中に広がる匂の中に清浄な砂流と沸筋が流れ掛かる。

短刀 長舩祐包 Sukekane Tanto

2017-03-13 | 短刀
短刀 長舩祐包


短刀 長舩祐包

 祐包は、江戸時代末期、即ち備前刀最後期の一人。地鉄は良く詰んで小板目状に見えるが、その中にうっすらと板目や杢目が浮かんで見える。均質ながら無地にはならず、綺麗に粒立っているように感じられる、極上の地鉄だ。刃文は腰の開いた互の目に小互の目と小丁子を交えた抑揚のある構成。匂を主調に所々に小沸が付いて明るく、刃中には匂の足が柔らかく入る。帽子は綺麗な直状に小丸に返る。江戸期の備前伝の典型の一つ。短刀は、江戸時代に入ると製作されなくなる。せいぜい寛永頃までで、再び製作されるようになるのは江戸時代後期。

太刀 長舩政光 Masamitsu Tachi

2017-03-11 | 太刀
太刀 長舩政光


太刀 長舩政光

 政光は南北朝時代後期の備前を代表する刀工の一人。斬れ味が優れていることでも良く知られている。この太刀は、二尺二寸強に磨り上がって、茎の下端部に銘が残る。杢目を交えた板目鍛えの地鉄が良く詰んで、総体に映りが立ち、地沸と地景によって肌目が綺麗に浮かび上がって見える。特に物打辺りの地鉄の美しさが際立ち、刀身中ほどでは流れるような板目肌となる。刃文はわずかに逆がかった小互の目。子細に観察すると互の目の頭に小丁子が交じり、逆足が品よく入る。美しい地刃となっている。

脇差 宗寛 Sokan Wakizashi

2017-03-10 | その他
脇差 宗寛


脇差 宗寛

同じ備前伝の互の目や小丁子ながら、比較的簡潔な刃文構成と言い得る、先の守久とは対極にあるような出来。以前にも宗寛の刀を紹介したことがある。本作は平造の小脇差であり彫刻が施されているところが大きな違いだが、良く詰んだ地鉄の様子や、小豆を並べたような小互の目出来の刃文は風合いを同じくしている。良い研磨が施されているために地鉄の様子が良く判る。横目映りと呼ばれる地の働きも良く判ると思う。匂口の柔らかな焼刃は、刃縁に匂のほつれがかかり、小足が盛んに入って刃中に濃密に広がる匂ととけあって濃淡変化のある景色を生み出している。繊細な地刃の働きが堪能で来る作品である。透かし抜いた彫刻も素晴らしい。彫り物に関して言うと、実用上では、彫物のない作の方が頑丈であることは間違いない。このような特殊な作は使うこと以上に別の意味を持っていた。もちろん使えば、宗寛は斬れ味優れた刀工であるため、威力を発揮したことも間違いない。凄い作である。

刀 守久 Morihisa Katana

2017-03-09 | 
刀 守久


刀 守久

 石堂派は江戸においても活躍している。その一人が守久。江戸時代前期の明暦頃。刃長二尺三寸、反り四分。この時代の典型的姿格好。二尺三寸を定寸と呼んでいる方は、この時代の刀を指しているだろうと、想像しているのだが、実際には戦国時代のものまで二尺三寸を定寸と勘違いしている方が未だにおられる。二尺三寸が定寸は、戦のない平和な、このような時代の刀のこと。戦がないとはいえ、この刀工も良く斬れたことで評判である。良く詰んだ小板目鍛えの地鉄に、乱れた互の目に小丁子交じりの刃文が複雑ですごい。小丁子の頭が地に突き入って時に飛焼となり、刃中は小足が盛んに入り砂流しが穏やかに掛かり、物打辺りには小互の目状の沸筋が流れて二重刃のような景色となっている。石堂派、即ち備前古作を手本としている作風だが、互の目丁子もこうなると良く判らない。とにかく変化に富んでいるすごい作だ。

刀 備中守康廣 Yasuhiro Katana

2017-03-08 | 
刀 備中守康廣


刀 備中守康廣

 備中守康廣は、大坂石堂と呼ばれる江戸時代前期に備前伝を得意とした刀工集団の代表格。出は紀伊国であり、紀州石堂の呼称もある。この刀も高低変化に富んだ互の目に小丁子が密に連なる刃文構成で、小足、飛足が盛んに入り、鎌倉時代中期の備前古作を手本にしたことが良く判る。帽子はわずかに乱れ込んで掃き掛けており、古調を示している。地鉄は地景を伴う小板目鍛えに縮緬状に杢や板目が入って肌目が強く現れているとともに、丁子風の映りが淡く立っている。鎌倉時代の焼刃を求めながらも、刀の姿格好は江戸時代前期の、腰に帯びて安定感のあるもの。簡単に説明してしまったが、小丁子が密集し、焼頭が高低変化しながら連続し、しかも小丁子の寄り合う様子は複雑で繊細。鎌倉時代のあまり揃わない構成の方が自然味があって良いという人もあろうが、江戸時代の完成されたこのような美観もいい。澄んだ刃中に射す無数の足と宙を舞う飛足の動きのある働きも大きな見どころ。江戸時代の作と鎌倉時代の作を並べて比較するものではないが、こうして優品を鑑賞すると、江戸時代の技術の確かさを改めて思い知らされることになる。良いものは、時代など無関係に良いのだ。

刀 長舩忠光 Tadamitsu Katana

2017-03-07 | 
刀 長舩忠光


刀 長舩忠光文明十八年

 一寸ほどの区送りで二尺一寸強。反り六分。室町時代中頃の刀の一典型である。身幅はさほど広くなく、重ねを厚くして樋を掻いている。これも、この時代の高級武将の持ち物として多くみられる造り込みである。地鉄は、良く詰んで小板目風にも感じられる杢目交じりの板目肌で、微細な地沸が付いて映りが立ち、繊細な地景が肌目を綺麗に際立たせる。刃文は逆がかった互の目丁子。帽子は乱れ込んで返る。匂出来の焼刃は、明るく、柔らか味のある匂の足が射し、刃境には繊細なほつれが掛かっている。帽子が乱れ込んで、指表は二重刃状となる。忠光は直刃を得意とした名工だが、このような互の目丁子出来においても優れた作品を遺している。

太刀 経家 Tsuneie Tachi

2017-03-06 | 太刀
太刀 経家


太刀 経家

 だいぶ磨り上げられて銘が茎の下端部に遺されている。現状で二尺二寸半ほど。やはり後に短くして扱い易さを追求している。製作の時代は応永。地景によって綺麗に肌目が立ち、地沸や映りによっていっそう際立ち、鉄とは思えぬ質感。盛光や康光と並べられ応永備前と呼ばれるにふさわしい知名度の高い経家は、本作を見るように、名前だけでなく素晴らしい作を遺しているのだ。刃文は穏やかに抑揚する構成の小互の目を主調に、腰開き互の目、小丁子を交え、帽子も乱れ込んで先は返っている。

脇差 見龍子壽幸 Toshiyuki Wakizashi

2017-03-04 | その他
脇差 見龍子壽幸


脇差 見龍子壽幸天保十三年

一尺五寸六分 反り三分六厘。脇差としては身幅が尋常で、反りも適度について扱い易いと思われるが、天保頃だから戦のあった時代の作ではない。だから出来が悪いのかと言うとそうではない。斬れ味も優れている。この一門は備前伝を突き詰めており、匂口の柔らかく明るい丁子出来の刃文を、小板目鍛えの地鉄に焼施す作を専らとしている。互の目が拳状に三つ四つと連なって繰り返す態が良く知られており、本作も、互の目丁子は比較的大模様にはならないが、小丁子の連続して小足が盛んに入る華やかな出来となっている。精良な地鉄を、さらに丁寧に鍛えて無地風に仕立てるのも、この時代の特徴でありまたこの派の特徴。


脇差 長舩則光 Norimitsu Wakizashi

2017-03-03 | その他
脇差 長舩則光


脇差 長舩則光文明十八年

一尺六寸、反り四分半。身幅を狭めて重ねを厚くし、樋を掻いて重量を軽減した、扱い易い武器。室町中期の特徴的な、柔らか味の感じられる良く詰んだ地鉄で、小板目風に微塵な中に板目や杢目が微かに現れる程度。刃文は小互の目と小丁子が連続し、焼頭が丸みを帯びたり互の目が穏やかに連続していたり、刃中に尖るような部分があったり、小足が入り、帽子は浅く乱れ込んで先尖り調子に返る。研磨において刃採りがされていないために分かり難いが、備前ものらしい変化に富んだ互の目丁子となっている。

太刀 隅谷正峯 Masamine Tachi

2017-03-02 | 太刀
太刀 隅谷正峯

 
太刀 隅谷正峯

 人間国宝に認定された隅谷正峯刀匠は、古墳時代の古い鉄を研究することにより鎌倉時代に迫ろうとした。その研究の成果が、この足の長く入る互の目に丁子を交えた刃文構成の太刀。地鉄は板目を交えた小板目鍛えで、古風に肌立ち、刃文は互の目の頭に抑揚のある構成。足は左右に広がり、刃先近くまで延び、匂の立ち込める焼刃は明るく冴え冴えとしている。帽子は浅く乱れ込んで先小丸に返る。総体に堂々とした造り込みで、刃文も一様にならずに変化がある。
    

短刀 水心子正秀 Masahide Tanto

2017-03-02 | 短刀
短刀 水心子正秀

 
短刀 水心子正秀文正元年

 平造の刀身に比して大振りの彫刻を施しているところは相州風ではあるが、刃文構成には明らかに備前伝。地鉄は細やかに良く詰んでおり、素質の良さを示している。小沸出来の小互の目に小丁子交じりの刃文は浅く湾れ、匂口が締まって明るく冴え、小足が盛んに入ってこれにわずかに砂流しが掛かる。足は逆がかっており、帽子は先小丸に返る。鮮やかな出来である。

刀 長舩祐定 Sukesada Katana

2017-03-01 | 
刀 長舩祐定

 
刀 長舩祐定永正十四年

 彦兵衛尉祐定の子、与三左衛門尉祐定の作。一尺九寸強の片手打ちの刀。未だにこれを脇差に分類している人がいる。実用の時代には扱い易い刀であった。身幅を狭めて重ねを厚くし、樋を掻いているのは彦兵衛尉の作と同じだ。地鉄は杢目交じりの板目肌で、良く詰み、地沸が付いて映りも顕著。刃文は腰の開いた互の目に小丁子と尖刃が交じって焼頭が変化に富み、その一部が蟹の爪のように見えるところがあり、この様態が以降の祐定の刃文構成の基礎ともなっている。刃縁に肌目に沿ったほつれが加わり、刃中に射す足をかすめて砂流しや沸筋が流れ掛かっている。帽子は乱れ込んで返る。帽子がこのように崩れ調子となるのは戦国時代の備前物の特徴。時には帽子の焼が深く一枚帽子となる。