つれづれに 

老いてゆく日々、興味ある出来事に私見を添えた、オールドレディーの雑記帳です。

『長い散歩』、いい映画です・・・

2009-11-01 | お気の毒です
 先日、NHK・BS2で、とてもいい映画を観ました。2006年作品の『長い散歩』、監督は俳優の奥田瑛ニです。彼は、若いときはそれほどいい役者とは思わなかったが、年を経るごとに、渋くて、どことなくニヒルで、大人の男の色気を感じさせる、いい役者になりました。


 この映画は、元校長の初老の男と、母親からの虐待で心を閉ざしてしまった少女との逃避行を描いたヒューマンドラマで、2006年にモントリオール世界映画祭でグランプリ、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の3冠を受賞したそうです。
 出演は緒形拳、高岡早紀、松田翔太ほか。緒形拳のすばらしさはあらためて言うまでもありませんが、子役の杉浦花菜がとてもすばらしいです。オーディションで6歳~7歳の子どもを探していたそうですが、偶然紛れ込んだ当時5歳の杉浦花菜を見るなり満場一致で幸役が決定し、本作で映画デビューとなったというのです。たった5歳の女の子が、虐待により心が壊れてしまった少女という難しい役を見事に、それも、70歳近い緒形拳を相手に堂々と、ごく自然に演じていることに驚きました。

 少女(杉浦花菜)は靴も履かずいつも裸足で、背中にダンボールで作った天使の羽を付けて、いつも二階の階段からぼーっと景色をみています。この天使の羽は、幼稚園のお遊戯で演じた「天使のパンツ」の小道具ですが、自分で新聞紙を貼り付けて直したものなのです。おそらく、その擦り切れた羽根は、彼女のたった一つの楽しい記憶の名残なのかもしれません。

 少女の家はゴミが散乱して足の踏み場もありません。少女は母親がいる時は食卓机の下に隠れるようにゴミの中にうずくまっています。出かける母親が小銭を放り投げると、その散らばった小銭をかき集め、少女はメロンパンを買いに行きます。そして、お店の中では、バナナの皮をむいたり、ぶどうやイチゴの実をつぶしたり、お菓子の袋を破いたり、まるで怒りをぶつけるかのようにいたずらを繰り返します。

 安太郎(緒形拳)は少女を連れて旅に出ます。ファミレスで「何を食べる?」と聞くと、「メロンパン」。メロンパンしか食べたことがないのです。そして、「僕は安田松太郎。きみの名前は?」とたずねると、いつも母親やヒモの男からそう呼ばれているからでしょうね、少女は「ガキ」と答えます。彼女の反抗的な目が印象的です。
 ある夜、少女は「サチ」と、自分の名前を言います。サチが「置いてゆかない?」と言うので、「絶対に置いてゆかないよ」というと安心して眠ります。その姿が、何ともいじらしくて、いじらしくて…。

 一方、サチの母親が娘の失踪を警察に届けたため、警察は松太郎が少女を誘拐したとして指名手配します。刑事(奥田瑛二)らに追われ、一生懸命逃げます。その姿をみた刑事が言います。「2人の後ろ姿を見ていると、このままそっとしておいてやりたいと思う。今の世の中、こういう人間が必要なんだよ」と…。

 風邪を引いたサチを寝かせつけ、自分も眠りについたとき、目覚めたサチが松太郎の布団に入ってきて、「おじいちゃん。サチのこと好き?」と聞きます。「好きだよ」と言ってやると松太郎に抱きついてきます。人に体を触られると大声をあげていたサチが、やっと心を開いたのです。

 ある駅で、ワタルという青年と出会います。彼の父親は外交官で、「男でも帰国子女です」といって笑います。でも、彼は世間になじめず、心に闇を抱え、生きることに疲れて旅に出たのです。サチがワタルになつき、笑うようになります。でも、ワタルは、隠し持っていたピストルで自ら頭を打ち抜き自殺してしまいます。松太郎は彼に何もしてやれなかったことを悔やみ悲しみますが、ワタルをそのままにして立ち去ります。
 そのため、警察の捜索は厳しくなり、もう行き場がなくなります。松太郎は自首する決心をして、警察署の近くまで行きます。そして、道路にひざをついて泣きながらサチに謝ります。サチも泣きながら松太郎に抱きついて離れません。だんだんと人垣ができて、やがて警官が近寄ってきます。そこで画面が変わります。

 逮捕された場面も、どれくらいの刑だったかの説明ありません。静かに刑務所の門が開き、松太郎が出てきます。彼はそこでサチの幻影を見ます。「サッちゃん、ただいま」とつぶやきますが、幸の姿は消えてしまいます。どこへゆくのか、松太郎の後ろ姿がたまらなく悲しく見えました。サチはどうなったのか、何も語ることなく映画は終ります。
 最後に流れる、「傘がない」という曲。UAという歌手の声が、なんとも物悲しくて、心にしみてきます。


 ぜひ、『長い散歩』サイトの“解説”、“物語”を読んでいただきたいと思います。

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3 コメント

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Unknown (ばーば)
2009-11-01 18:36:27
レディーさんのストーリーを読んで、UAという歌手の歌を聴いて、
長い散歩のサイトの物語と解説を読んで、予告編を観ました。
もう上映していないのでビデオを借りに行くしかないですね~。
緒方拳演ずる元校長の贖罪の気持ち。
誰の心の中にも潜んでいる様な気がします。
私の前のごみ入れには涙と鼻水で濡れたちり紙が、山になっていますよ。
良い映画を紹介してくださって有難うございます。
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Unknown (オールドレディー)
2009-11-01 18:50:50
♠ばーばさま
私もティシュの山をこしらえました。

いつもは録画するのに、このときは放送を観てしまい、録画しておくのだったと悔やみました。もう一度じっくり観たい映画です。

出演者の数は少ないのに、それぞれが重要な役なのですね。

ぜひ、ビデオを借りて観てください。

ばーばさんに教わった歌の動画、うまく挿入できました。ありがとう。
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子供の心 (おくだっち)
2009-11-02 08:50:48
子供の純真無垢な心は、大人によってすばらしい成長をさせることができる反面、虐待などに遭うと簡単に壊れてしまいますね。

私の長男夫婦が共働きで、スキンシップの時間が殆ど無く我が家に来ても会話が苦手な孫達を見てでもすごく気がかりなのに、我が子を虐待する親などがいるというのは精神状態を疑います。

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