私が今回観た絵で一番印象的だったのがこの作品、フランス・ハルス作の『笑う少年』だった。歯をむき出しにしてはち切れそうな笑いを顔中に広げている少年。幸せそのものといった感じだ。底抜けに明るく表情が豊かなのに驚いてしまった。ちょっと雑な感じのタッチも魅力的だ。どちらにしても当時の絵に対して私が持っていたイメージからあまりにもかけ離れているではないか。
実際当時はこのような笑い顔を肖像画に描かせるとは見苦しいことだと思われていた。そしてこの絵も正真正銘の肖像画ではなく、ハルスが無邪気な笑いと愉快な少年といった性格を絵で記録しようとして描いたとのことだった。
ハルスはほかにも笑顔の作品を描いた。そしてその後17世紀のオランダ絵画では笑顔の絵がたくさん描かれた。残念ながら画像が見つからなかったのだが満面笑みを浮かべながらヴァイオリンを持っている女性を描いた『ヴァイオリン弾き』(ヘリット・ファン・ホントホルスト)の絵もあった。あまりにものびやかな笑顔に圧倒されながらも強く心惹かれた。
このように絵に笑いの表現が採り入れられた当時のオランダはまさに黄金時代であり、絵画の注文も王侯貴族や教会から中間層へと広がったとのことだった。そして描かれる対象も、それまで多かった神話や物語から、風俗画、風景画、静物画、そしてくつろいだ雰囲気の肖像画が望まれるようになったとのことだった。
それにしてもこの少年の笑顔はすばらしい。そしてこのような描写を実現したハルスもすばらしい。17世紀前半のオランダの子供たちもこんなに愛らしかったんだなあと。
『真珠の耳飾りの少女』目当てでもいいですが、親しみを感じられそうな風景画、肖像画にも出会える魅力的な展覧会だと思いました。会期は東京都美術館で9月17日(月・祝)まで、神戸市立博物館で9月29日(土)~翌年1月6日(日)です。