牛田智大氏のピアノリサイタルに行ってきた。響きのよさで知られるホールで開催される、日時的に都合がつく演奏会であったのもあり、ぜひ一度聴いてみたいと思っていた所だった。人も沢山来ており、牛田氏の人気のほどがうかがえた。
プログラム
リスト作曲 愛の夢第3番
ショパン作曲 ノクターン13番 ハ短調Op.48-1
ショパン作曲 幻想即興曲 嬰ハ短調Op.66
ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調Op.27-2「月光」
バッハ作曲ブゾーニ編曲 シャコンヌ
休憩
シューマン作曲リスト編曲 君に捧ぐ (献呈)
リスト作曲 パガニーニ大練習曲集より第3曲「ラ・カンパネラ」
リスト作曲 ピアノソナタロ短調
アンコール
ラフマニノフ作曲 パガニーニの主題による狂詩曲 作品43 から 第18変奏
重量級のプログラムだ。可愛らしかった子供時代とのギャップも大きい。おそらく彼はその後目覚ましく成長し続けている演奏家なのだろう、という期待が感じられた。
愛の夢、ノクターン、幻想即興曲と一気に3曲演奏。響きのよいホールなのもあり、音がよく飛んできた。愛の夢、フレーズのまとめ方に細やかな心配りが感じられ、曲自体のきらりとした輝きが感じられた。ノクターン、幻想即興曲、まっすぐさと素直さが感じられ、これらの曲を聴いたばかりのときに感じた、宝物に出逢ったような幸福感が蘇ってきた。ここぞという目だったひねりは私の耳では感じられなかったのだが、内声部の一部、隠し味のように大切に歌いこんでいるところがあって曲に踏み込んで演奏しているのだなと思えたりした。
月光ソナタ、有名すぎるぐらい有名な第1楽章、ゆらゆらとさす光の背後にある哀しみ、ほのかに明るい表情をしたりしたものの、最後は重く悲しく終わる思いが密度濃く感じられた。第2楽章、今までついつい聴き流すことが多かったこの楽章だけど、再現部で変化をつけたりと工夫のように思えるところがあり、愛しさが感じられる演奏だった。
前半最後のバッハ作曲ブゾーニ編曲シャコンヌ、いよいよヘビー曲の登場、重苦しくならずに聴けるだろうかという懸念があったのだけど、そんな懸念はたちまち吹き飛んだ。楽器がたちまちピアノからオルガンへと変身、ホール全体に音の柱がささった。神々しく力強い光を華麗に発し、その光は万華鏡のように輝き、エネルギーを放ちながら一切よどむことなく勢いよく流れていき、聴いていてとても気持ちが良いのだった。夫々のモチーフの魅力も手に取るように伝わってきて、この曲はこんなに素晴らしい曲だったのだ、もっと味わって聴いていこうと思えるような演奏だった。そう、彼の演奏を聴いて、シャコンヌが今までよりもずっと好きになった、感謝したい。
休憩後後半は全曲リストがかかわった曲目。私も弾いたことのある献呈だが、さすが、すみずみまで洗練されていて、こんなに弾けたらシューマンもリストも喜ぶだろうなと思える演奏だった。ラ・カンパネラ、哀愁の感じられる鐘の響きがあちこちこだましながら盛り上がってゆく様子が美しく、この曲に出逢ったばかりのときに感じた、悲しくもドラマチック、そして懐かしい感情が蘇ってきた。
プログラム最後のリスト作曲ピアノソナタロ短調の演奏前に、牛田氏がマイクを握った。長くてとりとめのなさそうなこの大曲を、味わいながら聴けるように、曲の由来だと言われるゲーテ作のファウストの登場人物に曲の重要なモチーフをあてはめたものを演奏しながら解説、ファウスト、メフィスト、グレートヘン、そしてお互いの絡み合いや神がこのような形で曲の中で出てきたのかと驚きながら聴いた。牛田氏の解説はとても分かりやすく、色々な場面や様相で登場するファウストやメフィストの存在に惹きつけられたのだが、記憶力の低下もありどこの部分がどういうテーマだったか忘れてしまったものも。。。残念。
しかしファウストやメフィストのように覚えていたテーマを手掛かりに聴いてみたら、あらら、音楽から感情のある登場人物が浮かび上がってきた。途中で登場人物の記憶が飛びそうになっても、音楽のエネルギーは場面の転換を何度も経ながら、とどまることなく流れ、その魅力的な流れに身を任せているうちに、永遠の世界へ羽ばたいていけそうな気分になった。ピアノの可能性を限界まで追求し、魅力を惜しみなく出そうとしたリストの欲張りな想いも伝わってきた。多種多様な音色やフレーズ、そして溌剌たる勢いでホール全体に展開されるドラマ、この瞬間を味わうことが出来てなんて幸せなのだろうと感じた。牛田氏が現代のリスト予備軍 (まだ若く発展途上なので予備軍も加えておきます)のように思えてきた。リストの曲の中で最も好きな曲はこのロ短調ソナタ、今日の演奏でますますその気持は確固たるものに。
割れんばかりの拍手の後、パガニーニの主題による狂詩曲の第18変奏で締めくくった。沢山の宝物を私たちに与え、彼はステージを去った。
終了後、シャコンヌとロ短調ソナタの入っているCDはないだろうかと思って探したのだが見つからず。。。それだからこそ、この2曲をライブで聴けて本当によかった。牛田智大氏、骨太で将来性に溢れた演奏家、これからも演奏を聴きたいと思えるピアニストの一人になった。本当に生で聴けてよかった。数年前にも同じホールで演奏会を開いたようなので、また聴ける機会がありそうな気がする。楽しみだ。
プログラム
リスト作曲 愛の夢第3番
ショパン作曲 ノクターン13番 ハ短調Op.48-1
ショパン作曲 幻想即興曲 嬰ハ短調Op.66
ベートーヴェン作曲 ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調Op.27-2「月光」
バッハ作曲ブゾーニ編曲 シャコンヌ
休憩
シューマン作曲リスト編曲 君に捧ぐ (献呈)
リスト作曲 パガニーニ大練習曲集より第3曲「ラ・カンパネラ」
リスト作曲 ピアノソナタロ短調
アンコール
ラフマニノフ作曲 パガニーニの主題による狂詩曲 作品43 から 第18変奏
重量級のプログラムだ。可愛らしかった子供時代とのギャップも大きい。おそらく彼はその後目覚ましく成長し続けている演奏家なのだろう、という期待が感じられた。
愛の夢、ノクターン、幻想即興曲と一気に3曲演奏。響きのよいホールなのもあり、音がよく飛んできた。愛の夢、フレーズのまとめ方に細やかな心配りが感じられ、曲自体のきらりとした輝きが感じられた。ノクターン、幻想即興曲、まっすぐさと素直さが感じられ、これらの曲を聴いたばかりのときに感じた、宝物に出逢ったような幸福感が蘇ってきた。ここぞという目だったひねりは私の耳では感じられなかったのだが、内声部の一部、隠し味のように大切に歌いこんでいるところがあって曲に踏み込んで演奏しているのだなと思えたりした。
月光ソナタ、有名すぎるぐらい有名な第1楽章、ゆらゆらとさす光の背後にある哀しみ、ほのかに明るい表情をしたりしたものの、最後は重く悲しく終わる思いが密度濃く感じられた。第2楽章、今までついつい聴き流すことが多かったこの楽章だけど、再現部で変化をつけたりと工夫のように思えるところがあり、愛しさが感じられる演奏だった。
前半最後のバッハ作曲ブゾーニ編曲シャコンヌ、いよいよヘビー曲の登場、重苦しくならずに聴けるだろうかという懸念があったのだけど、そんな懸念はたちまち吹き飛んだ。楽器がたちまちピアノからオルガンへと変身、ホール全体に音の柱がささった。神々しく力強い光を華麗に発し、その光は万華鏡のように輝き、エネルギーを放ちながら一切よどむことなく勢いよく流れていき、聴いていてとても気持ちが良いのだった。夫々のモチーフの魅力も手に取るように伝わってきて、この曲はこんなに素晴らしい曲だったのだ、もっと味わって聴いていこうと思えるような演奏だった。そう、彼の演奏を聴いて、シャコンヌが今までよりもずっと好きになった、感謝したい。
休憩後後半は全曲リストがかかわった曲目。私も弾いたことのある献呈だが、さすが、すみずみまで洗練されていて、こんなに弾けたらシューマンもリストも喜ぶだろうなと思える演奏だった。ラ・カンパネラ、哀愁の感じられる鐘の響きがあちこちこだましながら盛り上がってゆく様子が美しく、この曲に出逢ったばかりのときに感じた、悲しくもドラマチック、そして懐かしい感情が蘇ってきた。
プログラム最後のリスト作曲ピアノソナタロ短調の演奏前に、牛田氏がマイクを握った。長くてとりとめのなさそうなこの大曲を、味わいながら聴けるように、曲の由来だと言われるゲーテ作のファウストの登場人物に曲の重要なモチーフをあてはめたものを演奏しながら解説、ファウスト、メフィスト、グレートヘン、そしてお互いの絡み合いや神がこのような形で曲の中で出てきたのかと驚きながら聴いた。牛田氏の解説はとても分かりやすく、色々な場面や様相で登場するファウストやメフィストの存在に惹きつけられたのだが、記憶力の低下もありどこの部分がどういうテーマだったか忘れてしまったものも。。。残念。
しかしファウストやメフィストのように覚えていたテーマを手掛かりに聴いてみたら、あらら、音楽から感情のある登場人物が浮かび上がってきた。途中で登場人物の記憶が飛びそうになっても、音楽のエネルギーは場面の転換を何度も経ながら、とどまることなく流れ、その魅力的な流れに身を任せているうちに、永遠の世界へ羽ばたいていけそうな気分になった。ピアノの可能性を限界まで追求し、魅力を惜しみなく出そうとしたリストの欲張りな想いも伝わってきた。多種多様な音色やフレーズ、そして溌剌たる勢いでホール全体に展開されるドラマ、この瞬間を味わうことが出来てなんて幸せなのだろうと感じた。牛田氏が現代のリスト予備軍 (まだ若く発展途上なので予備軍も加えておきます)のように思えてきた。リストの曲の中で最も好きな曲はこのロ短調ソナタ、今日の演奏でますますその気持は確固たるものに。
割れんばかりの拍手の後、パガニーニの主題による狂詩曲の第18変奏で締めくくった。沢山の宝物を私たちに与え、彼はステージを去った。
終了後、シャコンヌとロ短調ソナタの入っているCDはないだろうかと思って探したのだが見つからず。。。それだからこそ、この2曲をライブで聴けて本当によかった。牛田智大氏、骨太で将来性に溢れた演奏家、これからも演奏を聴きたいと思えるピアニストの一人になった。本当に生で聴けてよかった。数年前にも同じホールで演奏会を開いたようなので、また聴ける機会がありそうな気がする。楽しみだ。