富山県水墨美術館に行ってきました。名前の通り、近代日本の水墨画の歩みをたどる美術館で、富山でも特にお勧めの美術館のひとつ、しかも今回の企画展は横山大観(~5月10日(日) )だということでとても楽しみにしていました。
美術館の傍には神通川が流れているのですが、その川沿いに咲いている桜から見どころがありました。
入口です。門構えからして立派な印象です。
門から建物の入り口に行くまでもかなりの距離がありました。それだけ敷地が広いのですね。
そして館内に入るとまたまた大きな芝生と庭が見えました。見事な枝っぷりの枝垂桜も見えました。
周りの景観も含めた上での美術館になっていると感じました。
企画展の横山大観展の会場に入りました。近代日本画の創造に生涯を捧げた大観はどのような絵を描いたのでしょう。
まず最初は人物のコーナー。力強い牛と前かがみの人物の姿勢と動きが美しい「牧童」、ヒンドゥー教の風習で神への祈りがかない感謝の気持ちを込めて灯篭を流している女性たちによる儀式が描かれた「流燈」、『荘子』に書かれている梁の恵王と料理人の長とのやりとりを描いた「游刃有余地」、凛とした陶淵明と伸び行く竹、そして後ろにいる童子があどけない「陶靖節」など印象的な絵がありましたが、人物の表情の動きが表立っては見られないものの、どの絵に描かれている人物も見ていて心温まる印象を受けました。懸命に対象に向かうその人たちの姿勢が感じとられるような気がしました。
横山大観「牧童」
そして自然のコーナー。輪郭がなく筆で直接対象が描かれているがゆえに空気感や雰囲気が伝わってきて深みの感じられる作品が沢山ありました。空気、光線、立体感を表すために、輪郭をはっきりさせずぼかしを使う朦朧体という画風で描いたとのことです。この朦朧体、西洋画で巧みに表現されている大気描写を生かしたいという姿勢から来た表現法は、大観の師匠の岡倉天心から伝わり、大観や菱田春草が実験的に行った表現法です。日本画を日本画たらしめている、輪郭線を否定したということと、曖昧模糊な画風から当初は日本では受け入れられなかったために「朦朧体」という呼び名で呼ばれてしまったそうですが、その新たな試みは、日本画の新しい方向性を導き出したのではという気がします。実際に彼の描いた山、海、木々、太陽、月、空の様子は生き生きとしていて独自の空気感が出ていたような気がしました。春夏秋冬の四季がはっきりしていて湿気の多い日本をよく表しているようにも思えました。それぞれの物を表面で説明するのではなく、内面を描くことで見るものに奥深い真実を問い返しているのでは、と解説にあったのですが、確かにそのように思えました。墨のぼかし具合や筆跡でもくもく感の出ている木立と光を放つ白鷺が対照的な「木立に白鷺」、淡い水墨で表した山、月、湖が美しい「湖上の月」、ひょっこり木陰から顏を覗かせたイタチの表情が愛らしい「鼬」、険しさのある山々と下の霧が美しい「雨後ノ山」、富士山とその前の荒れ狂う太平洋の波の動きが見事な「或る日の太平洋」が印象的でした。
横山大観「木立に白鷺」
横山大観「鼬」
横山大観「雨後之山」
最後に旅のコーナー。北陸新幹線開業記念に開催されたこの企画、大観の富山への旅も伝わる内容になっています。大観が富山に訪れ立山に登ったのは今から110年前の明治35年であり、実際にその事実が分かる手紙や写真が残っており展示してありました。写真には口ひげを蓄えた横山大観、立山登山に同行したアメリカ人カーチス、当時の実業家菊池次平が写っていました。また、実際に大観は富山を描いています。カーチスと立山登山をしたときを思い出しふもと付近の街から立山を臨む様子を描いた「立山遠望」、当時の高岡市雨晴海岸地域の地主に懇願されて書いたという「雨晴義経岩」、富士山から出発し立山が最後に見えるという、立山から見たという雲海にそびえたつ富士山を描いたという「四時山水」がそうでした。
横山大観「立山遠望」
横山大観「四時山水」から抜粋 (横長の絵になっている。一番下(絵では左端)の絵は立山連峰)
見事な描写力と土地への愛情を感じてひたすら絵に見入るひとときでした。
企画展の部屋を出て、常設の「下岡昭作品室」という部屋に入りました。砺波市出身の下岡昭氏の作品が多数寄贈されたことがきっかけでこの水墨美術館が作られたとのこと。エネルギーと重厚感を感じさせる墨で自然を描写した作品が印象的でした。殆ど色が付いていない作品だったのですが山や木々、滝の様子が迫るように描かれていました。
輪郭がなくても、そして色をそこまでつけなくても、気持ちと技術が伴えば、対象をつかんで描写することができるというのが伝わってくる見ごたえたっぷりの内容でした。特に今日中心的に見ることができた横山大観について調べてみたら、まだまだ興味深いことが見つかりそうな気がしています。
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