中川右介著『戦争交響楽 音楽家たちの第二次世界大戦』朝日新聞出版
第二次世界大戦、特にドイツのナチス政権に翻弄された音楽家たちがどのような行動をとりどのように生きていったかというのを追った話。ユダヤ系だったため身を守るために亡命したワルター、ナチスに心では反対しているのにも関わらず、政治に疎かったためにいつの間にかナチスの宣伝塔のようになっていたフルトヴェングラー、ナチスやファシズムと徹底して戦い明確な態度を取り続けたトスカニーニ、出世のためにナチスに入党したもののヒトラーに嫌われフルトヴェングラーにも疎まれながらも聴衆からの人気があったカラヤン、その他音楽家たちもドイツ陣営、非ドイツ陣営、どちらかの立場につかざるを得なかったか、もしくは、危機的な状況の中で、生きるために立ち回らなければならなかった。それにしてもあの強面そうなフルトヴェングラー、よくも悪くも不器用で人間くさくて近くにいたら魅力的だけどとても大変な人だというのが手に取るようにわかるというのがなんともいえず。。。
ドイツ降伏が時間の問題となった1945年4月25日、連合国側は「国際機構に関する連合国会議」をサンフランシスコで開いた。ポーランドはロンドンにある亡命政権と国内にあるソ連が支援していた政権との二つの政府のどちらが正当な代表になるかもめていて代表を送ることができず、会場には国旗もなかった。そんなサンフランシスコで演奏会をすることになったポーランド出身のルービンシュタインは胸の動悸を抑えることができず、「よりよき世界の創造のために偉大な国々が集まったこのホールに、ポーランドの旗がありません。この国のために残酷な闘いがあったというのに」と言い、ポーランド国家をすさまじい音量で弾いたという。そして彼は生涯、ドイツでは演奏しなかったという。この話を読んでルービンシュタインがますます好きになった。
信念を貫きながらもいかに危機を乗り越えて生きていくか、そして守るべきものを守って生きていくか、極限の立場に立たされた音楽家たちのたくましき生きざまが伝わってきて心打たれたとともに現代にもつながるものが感じられた。巨匠と言われる人々も人間くささに満ち溢れ、立場の違いや弱点に心の中で憤りを感じたり涙したりすることがありながらも音楽とともに生き抜いたのだというのが伝わってきた。良質なドキュメンタリー映画を見ているようだった。内容、確実に消化するために、もう一度、読み直したくなっている。(そして関連図書も読みたい)登場する音楽も聴きたい。ショスタコーヴィッチの交響曲第7番、次に聴くときは聴く姿勢が変わりそう。お粗末な感想しか書けていないのだが、この本を紹介してくださった方に深く感謝している。