ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

シンデレラ

2015-09-18 15:02:51 | 映画のレビュー
ディズニーの実写映画「シンデレラ」を観る。
Yさんから、DVDをプレゼントして頂いたのだけど、劇場公開された時から観たくてたまらなかった映画。(それなのに、大きな映画館に行くことはほとんどなく、ミニシアターで、ちょっと癖のある映画ばかり観ている私…どうしてだろう?)

結局、観る機会もないままだったので、「わあ!」と喜び勇んで観ました…でも、イメージとはちょっと違っていたかも。

まず、主人公のシンデレラが、あまり可愛くない。金髪が綺麗で、清純そうなのだけど、どう見ても素朴な田舎娘といったところで、人が「シンデレラ」と聞いて思い描くような、夢のような美少女ではないのだ。 お伽噺のヒロインというのは、まず何を置いても、人々に幻想を抱かせるような美しさにあふれていなくてはならないのではないだろうか?

主人公のベラ(のちに、継母や義理の姉たちからシンデレラ<灰かぶり>と呼ばれる)が、あんまりチャーミングでなくて、がっかりした私なのだけど、継母にはちょっと魅かれるものがあったのだから、おかしなこと。継母を演じたのは、オーストラリアの美人女優ケイト・ブランシェットで、ちょっと派手とはいえ、洋服の趣味も申し分なく、猫のように輝く目と厚めの唇が、魅力的。

大体、白雪姫だって、美しさと心の清らかさではヒロインに劣るお妃の方が、面白いのではないだろうか? 毎日、毎日鏡に向かって「鏡よ、鏡。世界一美しいのは、だ~れ?」と聞く馬鹿さかげんもさることながら、変装して、醜い婆さんに化けて、白雪姫の毒リンゴを売りに行くという根性が、すでにただ者ではない。

シンデレラに魔法をかけてくれるフェアリーマザーを、ヘレナ・ボナム・カーターが演じているものの、そのはちゃめちゃなメイクアップぶりに、「あなたも、どうして、こんなところに?」と呟きたくなってしまった私。
ちょっと昔の映画ファンなら知っていると思うのだが、ボナム・カーターは、「眺めのいい部屋」など趣味のいい英国映画のヒロインを演じていた若手女優。 本人も、英国名門の血を引くとあってか、けっして美人でなく、小柄でずんぐりとした体型にもかかわらず、気品とあたりを圧する威厳があったもの。 彼女が演じるヒロインは、気は強く、プライドが高いにもかかわらず、頼りなく優しいインテリ青年に魅かれるというパターンが定まっていて、実在のヘレナもそういう女性だろう、と思いこんでいたら、鬼才監督tティム・バートンと結婚して、呆気にとられてしまった。

そうして、端正な役はほとんどなくなり、変な役どころをつとめるようになってしまったのだが、このマザーはちょっとねえ……。


豪華な配役や、舞踏会の外の夜の庭園の美しさなどにもかかわらず、映画としてはやや退屈で、平凡なものなってしまった印象がある。シンデレラは、あくまで昔話であり、お伽噺。だから、そのままのシンプルなストーリー展開にしていけばよいのに、あれこれつまらない背景やエピソードを盛り込んでしまったのでは?
ディズニーの実写映画を観たのは、これが初めてなのだけど、ディズニーの魔法はあくまでアニメだけに振りかけられるものなのかもしれない。
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安房直子さんの世界

2015-09-18 14:25:37 | 本のレビュー

すすきの吹きわたる秋の野原、優しい夕日や言葉をしゃべる動物たち。小さなハンカチの上や熊のふかす煙草の向こうにかくされた魔法……安房直子さんの名前を聞いただけで、しみとおるように美しい作品世界や、それを織りなすやわらかな言葉が思い浮かびます。

児童文学好きを自認する方なら、誰でも知っているであろう名前。ところが、私ときたら安房さんの作品にふれたことなど、ずっとなく、そのお名前を知ったのも、童話教室でご一緒してる方から聞いたのが最初。
早速、図書館で幾冊かの作品集をかりてきたのですが、最初の1ページ目から、その作品世界に魅せられてしまいました。こんなに素晴らしい童話作家を今までしらなかったなんて。

そもそも、私の児童文学遍歴(?)は、欧米の翻訳少年少女もの一辺倒で、我が国が生んだ名作にてんで疎かったのです。日本の児童文学といっても、宮沢賢治、小川未明といった永遠の古典をのぞけば、グリとグラの絵本や松谷みよこさんの「ふたりのイーダ」シリーズで読書がとだえてしまっているような気さえします。

安房さんの本にふれる間もなく、彼女が50歳かそこらで亡くなってしまったことも知ったのですが、あまりに美しい童話や清らかな人柄をしのばせるエッセイなどを読むと、こんな綺麗な心を持った人は、長く地上にとどまるはずはなかったのでは、とさえ思ってしまうのです。

宮沢賢治やアンデルセンは、もちろん天才です。でも、安房ファンタジーの、優しくやわらかく、身をひたしてしまいたくなるような、魅惑に満ちた世界にふれると、「こんな素晴らしいファンタジーを紡ぎだせる人は、今までも、これからも決して現れないだろう」と思うほど。

美しいレースを編みたいばかりに、家もお母さんも置き去りにして、はるか丘越え、不思議な刺繍の学校に入ってしまう女の子。そこには、蜘蛛を思わす女性がいて、この上なく精緻で、完璧な刺繍を教えてくれるのですが、女の子がそこで過ごしたのは長い長い年月でした…というお話や、妙な女の子と知り合い、彼女が「僕」を誘ってしのび込んだ美容室から盗んだ液体をなわとびにぬると、それは「夕日の国」に僕を連れて行ってくれるというお話。 なんて、魅力的なお話ばかりなんだろう――と彼女の本を開くたびに溜息がこぼれます。

安房さんの本は、ファンタジーというものに対する憧れを、私の内にもむくむくと湧きださせ、その尽きることのない泉から、何かを学びたくなりますね。
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