上平寺城

2014年04月22日 | 滋賀百城

 

  伊吹山南麓一帯に展開する京極氏の本城・上平寺城に
は、江戸時代の初期に描かれたと思われる『上平寺城絵
図』(米原収蔵)がある。廃城後百年ぐらいたった頃に、
現地の遺構を忠実に描き、伝承を加えて作成され
たと考
えられている。

 絵図は伊吹山頂を北にして、山腹の上平寺城と山麓の
京極氏館を中央に描き、南に城下、西側尾根上に家臣屋
敷、東は川戸川の峡谷、南端には軍事・経済の重要ルー
ト越前街道(北国脇往還)を描いている。現在でも、上
平寺周辺は絵図に描かれた中欧の姿を偲ぶことができ
る。ここでは、絵図の記載をたよりに城下から山城まで
をたどってみたい。



 まず、かつての外堀を埋めて作られた市道藤川相撲庭
線の上平寺バス停から上平寺城へ向かう。市道から南は、
絵図に市店や民家の存在が記されていて、発掘調査で屋
敷跡が出土している。その南の集落は寺林で、北国脇往
還が貫通する宿場町である。西に見える森には、若宮・
加州など六区画の家臣屋敷が良好にのこる。
 バス停から集落内を山手に向かう道が大手道で、一之
御門と呼ばれる四つ辻をすぎて、杉本坊を右手に見なが
ら伊吹神社の石柱にいたる。上平寺はわずか15軒の小
集落であるが、戦国時代にはここに武家屋敷が広がって
いた。石柱前の小水路が内堀で、京極氏館と城下を区画
する。



 ここから伊吹神社に入る。境内地一帯が京極氏館であ
る。全体の規模は東西約170メートル、南北約250
メートル。入ると右手に薬師堂がある。もともと一番上
手の伊吹神社の隣にあったものが、明治の神仏分離で場

所が移されたという。薬師堂の上段は弾正屋敷。その
かいに隠岐屋敷がある。いずれも京極氏の一族の屋敷

と推定され、隠岐屋敷には道に沿ってL字の土塁がめ

る。さらに、蔵屋敷などの広大な屋敷跡があり、道の

き当たり、鳥居の右側下段が京極氏の屋敷跡である。

奥行き約54メートル、幅約35メートルの規模で、こ
の奥に京極氏が愛でた庭園跡がある。
 池泉観賞式庭園で、おそらく館側に庭園を見るため
建物があり、川戸谷の四季を借景にして庭園を観賞した
思われる。百近くの大小の庭石が残り、往時を想像す
るには
充分だ。このような庭園は、単なる遊興のための
施設ではな
く、京都の御所で行われていた武家の儀礼を
この地で行い
京極氏の権勢を見せるための舞台装置とし
ての役割をもって
いた。北近江に花開いた戦国大名文化
を体感できる遺構である。



 さらに上段の伊吹神社の脇には京極氏一族の墓所があ
るが、ここからは、鳥居の手前を左に入る登威迫で山城を目
指す。クマは鈴などの鳴り物で避けてくれるが、ヒルは知らな
い間に忍び寄り、スズメバチは見境がないので要注意。
 京極高清か山麓に京極氏館を構えたとき、詰の城として築
いたのが上平寺城である,大永三年(1523)の家臣団によ
るクーデターにより、京極氏館は北近江の守護館として
の役割を終えるが、上平寺城は東山道と北国脇往還を見
下ろし、北近江と濃尾平野を一望できる地点にあること
から、江濃国境の境目の城として機能することになる。
『信長公記』には、元亀元年(1570)、浅井長政が
美濃から侵攻してくる織田信長に備えて、朝倉氏の援助
を受け、上平寺城と長比城を改修していることが記され
ている。しかし、城将の堀・樋口が信長に内応したこと
により、戦わずして開城した。



 七曲と呼ばれる急な山道を約50分。道の脇に巨大な
竪堀が見え隠れしはじめ、さらに進むと山道はこの竪堀
を分断して、すぐに上平寺城最大の曲輪に取り付く。こ
の曲輪先端部に展開する一本の放射状の竪堀群によって、
敵の攻撃は分断される。
 この最大の曲輪は、兵の駐屯地的な場所だろうか。こ
こをすぎると堀切があり、土橋を渡って両側を土塁で遮
断された空間に入りこむ。さらに正面に土塁が築かれて
おり、敵は前面と左右を土塁で囲まれた狭い空間に入り
込み、土塁上から弓矢による攻撃を受けることになる。
この枡形遺構が上平寺減量大の見どころである。
 ここからは、厚くて高い土塁に守られた曲輪が連続し、
量高所の主郭との間には東西に長大な竪堀が設けられて
いる。主郭へは仮設の遺で帯郭から登る。主郭からの眺
望は、晴天の日に名古屋のツインタワーが見え、また、
西に隣接する尾根上には弥高寺の広大な坊跡群が展望で
きる。



 上平寺城跡は、伊吹山(1377メートル)から南へ
伸びる刈安尾と呼ばれる尾根の先端に築かれており、主
郭背後の巨大な堀切には、ひと一人がやっと通れる土橋
を設けて尾根を断ち切る。
 伊吹山麓の京極氏関連遺跡は、弥高寺跡も含めて地元
により刈払いが行われている。規模・構造・眺望・歴史
ともに、一日かけてじっくり味わいたい。(高橋順之)

出典: 

    

【エピソード】

【脚注及びリンク】
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1.上平寺城 - ぶらり歴史めぐり - 歴史のかたりべ
2.京極氏遺跡群 -京極氏館跡・上平寺城址・弥高寺跡
3.伊吹山 新ルート 上平寺、弥高尾根コース
4.北国脇往還を歩く-関ヶ原から木之本
5.京極氏館跡&彦根城 モニタツアー

6.米原市: 伊夫岐神社
7.上平寺城跡(桐ケ城)と弥高百坊(刈安尾城)
8.
佐々木信綱
9.武家伝 京極氏
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