プロローグに続き、
「Holly night 」の前編です。
前編自体も、少し長くなるので、①と②に分かれます。
よろしければ、続きで、どうぞ。
クリスマスの夜 。
約束の場所、
約束の時間。
もともと、彼自身、バレンタインやクリスマスなど、
恋人同士にとってお約束のイベントには、あまり、興味を示さない。
他人に強制されることを、極端に嫌う彼にとって、
それらは、誰かに、踊らされていると感じるらしい。
けれど。
このクリスマスだけは。
ムリと判って、
我儘だと知って、
会う約束をした。
「クリスマスも年末も、仕事やぞ」
と、彼は言った。
「時間通りに行かへんかったら、先に帰れよ」
と。
そう言いながらも、
仕事さえ終われば、急いで駆けつけてくれるに違いなかった。
たとえ、
ほかのどんな女の人に目を奪われていたとしても、
この夜だけは、
私だけのために約束をしてくれたから。
イルミネーションが、
凍てつく空に輝きを放ち始める宵の口。
私は、雑踏の中にいた。
楽しそうな笑顔の家族連れや、
寄り添い、ささやき合う恋人たち。
行き交うのは、幸せを絵に描いたような人々。
その中に、取り残されたかのように、
ひとりきりで。
約束の時間を、一時間あまりも過ぎて、
彼はやって来た。
「やっぱり、まだ、おったんやな。
先に帰れ、言うたやろ」
私の顔を見るなり、彼は言った。
「オレが来んかったら、どうするつもりやってん」
「・・・・・・」
いきなりの説教口調に、私は思わず下を向く。
「ああ、悪かった、ごめん。
遅刻したんは、こっちや。ごめん」
苦笑いの彼。
肩に腕を回して、私を引き寄せ、
「埋め合わせは、何にする?」
耳元にささやきながら、微笑う。
私の答えなど待たずに、決めている表情。
いたずら好きなコドモのように。
いつもなら、私が笑って、おしまい。
けれど、この日は・・・。
「なん? 返事くらい、しいや」
「怒ってるんか?」
「なあ、遅れたんは、わざとちゃうよ」
「仕事だったって、知ってるよなあ」
「これでも、急いで来たんやで」
「メンバーの誘いかて、断ったし」
いつもと様子の違う私に、
言い訳にならない言い訳を繰り返していた彼の、
その表情が、
みるみるうちに、変わっていく。
不機嫌そうに、
キツくなっていく目元。
「無理して時間、作ったんやで。楽しくやろうや」
精一杯の、彼の譲歩。
言葉は優しいけど、声が、怖い。
「・・・・・・出来ない・・・」
「 は? なに?」
「出来ない」
「だから、何でや。
会いたい言うたんは、お前のほうやぞ」
どう、説明しよう・・・?
「クリスマスに仕事やったんを、怒ってるんか?」
「違う・・・」
「ほんなら、なに?
明日からは、ちょっとは、暇もできるぞ。
一緒に、居られるんやで」
それはそれで、嬉しいけど。
「あぁ。
腹へってんねやろ」
え?
「いつもの店なら、まだ大丈夫ちゃうかな、行こうや」
だから、違うって。
「ここ、寒いし。
ほら、手、こんなに冷たいやん」
私の手をつかみ、
自分のジャケットのポケットに、一緒に入れる。
「な? 機嫌、なおして」
私の顔を覗き込んだ彼。
怒ってる・・・。
見事なまでの、営業スマイルだよね、その顔。
「他のコにも、こんなふうに、すんの?」
「 !」
鳩が豆鉄砲喰らうって、こんなカンジ?
不意を突かれて、彼の動きが、一瞬止まる。
私を見た彼の顔が、凍りついているのは、
寒いからじゃない、よね?
「また、アホなこと、言い出したな。なんのことや」
うろたえてるのは、一目瞭然。
「このあいだ、後輩のコらと、合コン行ったでしょ」
「合コン? ・・・あれ、合コンかぁ?
・・・まあ、そこはええわ。行ったんは、ほんまやし、な。
ほんで? けど、そんなん、別に・・・」
「いつものこと。付き合いやってあるし。
そんなこと、分かってる」
「ほんなら、ええやん。細かいこと、ごちゃごちゃと 」
「お持ち帰りすんのも、いつものこと?」
「えっと。
お持ち帰りって、なにを?」
「それ、聞く? したよね?」
「してない、してない」
彼は、大げさなくらい、否定をした。
「誤魔化しても、無駄よ? 正直に、言うて」
「ちょッッ・・・待てや。ほんま、話が繋がらんぞ」
「後輩のコに聞いた。
集まったコの中でも、一番キレイなん、選んだって」
「オレの後輩? ・・・誰?」
「誰だって、いいでしょ? 問題は、そこじゃないもん」
「いや、だから。
話がみえんって、言うてるやろ」
「だから。今月の初めくらい・・・?新しくできたお店の、パーティー、行ったでしょ?」
記憶を探るように、彼が遠い目をする。
「そのパーティーのあと、あなたと後輩のコら・・・何人? えっと・・・3人?」
「あッ・・・!!」
思い出したんかな。
「いや、待て。
後輩とパーティーは、行った。確かに、行った。
キレイなお姉ちゃんかて、ようけ、おったわ」
「やっぱり」
「けどやな、お持ち帰りはしてへんぞ。
あっちが、勝手に付いて来てやな・・・」
「何したん」
一瞬の間。
前編②に、続く
「Holly night 」の前編です。
前編自体も、少し長くなるので、①と②に分かれます。
よろしければ、続きで、どうぞ。
クリスマスの夜
約束の場所、
約束の時間。
もともと、彼自身、バレンタインやクリスマスなど、
恋人同士にとってお約束のイベントには、あまり、興味を示さない。
他人に強制されることを、極端に嫌う彼にとって、
それらは、誰かに、踊らされていると感じるらしい。
けれど。
このクリスマスだけは。
ムリと判って、
我儘だと知って、
会う約束をした。
「クリスマスも年末も、仕事やぞ」
と、彼は言った。
「時間通りに行かへんかったら、先に帰れよ」
と。
そう言いながらも、
仕事さえ終われば、急いで駆けつけてくれるに違いなかった。
たとえ、
ほかのどんな女の人に目を奪われていたとしても、
この夜だけは、
私だけのために約束をしてくれたから。
イルミネーションが、
凍てつく空に輝きを放ち始める宵の口。
私は、雑踏の中にいた。
楽しそうな笑顔の家族連れや、
寄り添い、ささやき合う恋人たち。
行き交うのは、幸せを絵に描いたような人々。
その中に、取り残されたかのように、
ひとりきりで。
約束の時間を、一時間あまりも過ぎて、
彼はやって来た。
「やっぱり、まだ、おったんやな。
先に帰れ、言うたやろ」
私の顔を見るなり、彼は言った。
「オレが来んかったら、どうするつもりやってん」
「・・・・・・」
いきなりの説教口調に、私は思わず下を向く。
「ああ、悪かった、ごめん。
遅刻したんは、こっちや。ごめん」
苦笑いの彼。
肩に腕を回して、私を引き寄せ、
「埋め合わせは、何にする?」
耳元にささやきながら、微笑う。
私の答えなど待たずに、決めている表情。
いたずら好きなコドモのように。
いつもなら、私が笑って、おしまい。
けれど、この日は・・・。
「なん? 返事くらい、しいや」
「怒ってるんか?」
「なあ、遅れたんは、わざとちゃうよ」
「仕事だったって、知ってるよなあ」
「これでも、急いで来たんやで」
「メンバーの誘いかて、断ったし」
いつもと様子の違う私に、
言い訳にならない言い訳を繰り返していた彼の、
その表情が、
みるみるうちに、変わっていく。
不機嫌そうに、
キツくなっていく目元。
「無理して時間、作ったんやで。楽しくやろうや」
精一杯の、彼の譲歩。
言葉は優しいけど、声が、怖い。
「・・・・・・出来ない・・・」
「
「出来ない」
「だから、何でや。
会いたい言うたんは、お前のほうやぞ」
どう、説明しよう・・・?
「クリスマスに仕事やったんを、怒ってるんか?」
「違う・・・」
「ほんなら、なに?
明日からは、ちょっとは、暇もできるぞ。
一緒に、居られるんやで」
それはそれで、嬉しいけど。
「あぁ。
腹へってんねやろ」
え?
「いつもの店なら、まだ大丈夫ちゃうかな、行こうや」
だから、違うって。
「ここ、寒いし。
ほら、手、こんなに冷たいやん」
私の手をつかみ、
自分のジャケットのポケットに、一緒に入れる。
「な? 機嫌、なおして」
私の顔を覗き込んだ彼。
怒ってる・・・。
見事なまでの、営業スマイルだよね、その顔。
「他のコにも、こんなふうに、すんの?」
「
鳩が豆鉄砲喰らうって、こんなカンジ?
不意を突かれて、彼の動きが、一瞬止まる。
私を見た彼の顔が、凍りついているのは、
寒いからじゃない、よね?
「また、アホなこと、言い出したな。なんのことや」
うろたえてるのは、一目瞭然。
「このあいだ、後輩のコらと、合コン行ったでしょ」
「合コン? ・・・あれ、合コンかぁ?
・・・まあ、そこはええわ。行ったんは、ほんまやし、な。
ほんで? けど、そんなん、別に・・・」
「いつものこと。付き合いやってあるし。
そんなこと、分かってる」
「ほんなら、ええやん。細かいこと、ごちゃごちゃと
「お持ち帰りすんのも、いつものこと?」
「えっと。
お持ち帰りって、なにを?」
「それ、聞く? したよね?」
「してない、してない」
彼は、大げさなくらい、否定をした。
「誤魔化しても、無駄よ? 正直に、言うて」
「ちょッッ・・・待てや。ほんま、話が繋がらんぞ」
「後輩のコに聞いた。
集まったコの中でも、一番キレイなん、選んだって」
「オレの後輩? ・・・誰?」
「誰だって、いいでしょ? 問題は、そこじゃないもん」
「いや、だから。
話がみえんって、言うてるやろ」
「だから。今月の初めくらい・・・?新しくできたお店の、パーティー、行ったでしょ?」
記憶を探るように、彼が遠い目をする。
「そのパーティーのあと、あなたと後輩のコら・・・何人? えっと・・・3人?」
「あッ・・・!!」
思い出したんかな。
「いや、待て。
後輩とパーティーは、行った。確かに、行った。
キレイなお姉ちゃんかて、ようけ、おったわ」
「やっぱり」
「けどやな、お持ち帰りはしてへんぞ。
あっちが、勝手に付いて来てやな・・・」
「何したん」
一瞬の間。
前編②に、続く