夕方、三女が、
高校の近くの焼肉屋さんで、クリスマス会があるから送って、といいました。
三女の高校のあるところは、
「世界のトヨタ」のある市です。その、南のはしっこ。
我が家からだと、モロ、関係各社のそばを通る道しかありません。
案の定、行きも帰りも、帰宅ラッシュにひっかかり、
昼間なら15分ほどで着く道のりを、
40分もかけて行き、50分もかけて帰ってきました。
ワン信号で、車一台渡れるか渡れないか、
100m進むのに、10分かかるとか。
覚悟はしてましたけど、
いささか、ウンザリしながら、娘を送っていきました。
イルミネーションのかけらもない、
田んぼの中の一本道。
車内の∞だけが、大音量で響いておりました。
お迎え時には、もうすっかり、道路は空いていて、
15分で着きました、とさ。
カードを封筒に戻し、
彼は、残っていたビールを、勢いよく、喉に流し込む。
「結局、サンタの魔法は、ことごとく裏目にでたっちゅうわけやな」
「私が、もっと上手にやれたら、あなたに、喜んでもらえたかもしれへんかったのに。
ごめんね」
「ほんまやで。オレ、いらんこと、考えてたわ」
「いらんこと、て?」
「もう、あかんのかって。
オレの言葉より、メンバーの言ったことを守りたがるくらいやから、
別れるつもりなんかなって。
オレは、サンタにも、なれへんかったんやって」
「サンタに、なりたかったの?」
「当たり前やろ」
「だって、いつも、クリスマスとか関係あらへんって言うてるのに」
「いくら、オレがクリスマスとか関係ないって言うてたかて、
おまえの喜ぶ顔みたいことには、違いはあらへん。
せやけど、こんな仕事してるから、時間通りに事が終わるとは限らんし、
いつ、急な仕事が入るかもわからん。
約束して、期待だけさせて、
大事な日に、土壇場で、がっかりさせるようなこと、したくないやん。
そやったら、無理せんと、いつも通りに過ごしたほうがええやろ、と思うてたんや」
「私だって、そう思ってたよ。
仕事の忙しいあなたに、無理させんように、
なるべくなら、負担かけないようにって思って」
「どこで、すれ違ってんやろな。
今日の、あの店やって、2~3日前かな、急に思い立って電話してみたら、
空いてるっていうから、急遽、予約入れて。
アクセサリーやって、俺、ホントは、下見までしててんぞ」
「え・・・!?」
「そんな驚かんでもええやん。
オレやって、サンタになりたかったんやもん。
相手の喜ぶ顔が見たいって思う気持ちが、オレをサンタにしてくれるんやって。
相手の喜ぶ顔、想像しながらプレゼント選んでる時間に、サンタになれるんやって」
「だったら、十分、あなたはサンタになれたじゃない」
「ほんでも、肝心要の、おまえが、喜んでくれへんかったら、
意味あらへん」
「嬉しかったよ? ピアス」
「だって、あれ、オレがええなって、言うたやつやん。
あれ、ほんまに、欲しかったんか? オレが押し付けたみたいに、なってないか?
おまえの好きなんと、ちゃうんやろ?」
私は、バッグから、さっきのピアスを取り出した。
丁寧にラッピングされたリボンを解く。
「このピアス・・・。
確かに、選んだのは、あなただけど、でも。
あなたの目に、真っ先に留まったものが、欲しかったの。
たくさんある、いろんなキレイなものばっかりのショーウィンドウの中で、
あなたの心を、捉えたものが。
それが、きっと、私の、お守りになる、と、思ったの」
「どういうことやねん」
「あなたが、私を選んでくれたんだってこと、忘れないでいようと思ったの。
この先、どんなことが起きても、
あなたを信じていられる、お守り。
このピアスは、私自身なの。選ばれた、印」
「面倒なやっちゃな。そんなピアス信じんと、オレを信じてたらええのに」
「ホント。そうよね」
「なあ。そのピアス、片方ずつ、持つことにしようや」
「片ピアス?」
「今日みたいな、すれ違いを起こさんように、8つめの、魔法や。
サンタレンジャー、最後の魔法やぞ。
ペアじゃないし、お揃いっちゅうんでもないけど、
一個くらい、二人しておんなじもん持ってたかて、ええやろ」
彼は、箱から、ピアスをひとつ取り出すと、
「ほら、耳、だして」
私の髪を、掻き揚げた。
「うん、似合うわ」
私の耳に、ピアスをつけて、微笑った。
目じりに、いっぱいの、しわよせて。
「オレにも、つけたって?」
残っていたピアスを、今度は、私が、彼の耳に、つける。
「ヒトにやってもらうん、やっぱり、くすぐったいわ」
そう言って、彼は肩を少し、すくめた。
二人の耳に、小さな音符。
これから、この音符は、どんな楽譜を描くのだろう。
どうか、不協和音だけは、奏でませんように。
「ええか。
オレには、おまえがそこにおってくれることが、
最高の魔法やねんぞ。
他には、なんも、いらんからな。
余計なことに、惑わされんなや」
彼の言葉で、私は、また、魔法にかかる。
聖なる夜の、永遠に、と願う魔法に・・・。
FIN・・・?
高校の近くの焼肉屋さんで、クリスマス会があるから送って、といいました。
三女の高校のあるところは、
「世界のトヨタ」のある市です。その、南のはしっこ。
我が家からだと、モロ、関係各社のそばを通る道しかありません。
案の定、行きも帰りも、帰宅ラッシュにひっかかり、
昼間なら15分ほどで着く道のりを、
40分もかけて行き、50分もかけて帰ってきました。
ワン信号で、車一台渡れるか渡れないか、
100m進むのに、10分かかるとか。
覚悟はしてましたけど、
いささか、ウンザリしながら、娘を送っていきました。
イルミネーションのかけらもない、
田んぼの中の一本道。
車内の∞だけが、大音量で響いておりました。
お迎え時には、もうすっかり、道路は空いていて、
15分で着きました、とさ。
カードを封筒に戻し、
彼は、残っていたビールを、勢いよく、喉に流し込む。
「結局、サンタの魔法は、ことごとく裏目にでたっちゅうわけやな」
「私が、もっと上手にやれたら、あなたに、喜んでもらえたかもしれへんかったのに。
ごめんね」
「ほんまやで。オレ、いらんこと、考えてたわ」
「いらんこと、て?」
「もう、あかんのかって。
オレの言葉より、メンバーの言ったことを守りたがるくらいやから、
別れるつもりなんかなって。
オレは、サンタにも、なれへんかったんやって」
「サンタに、なりたかったの?」
「当たり前やろ」
「だって、いつも、クリスマスとか関係あらへんって言うてるのに」
「いくら、オレがクリスマスとか関係ないって言うてたかて、
おまえの喜ぶ顔みたいことには、違いはあらへん。
せやけど、こんな仕事してるから、時間通りに事が終わるとは限らんし、
いつ、急な仕事が入るかもわからん。
約束して、期待だけさせて、
大事な日に、土壇場で、がっかりさせるようなこと、したくないやん。
そやったら、無理せんと、いつも通りに過ごしたほうがええやろ、と思うてたんや」
「私だって、そう思ってたよ。
仕事の忙しいあなたに、無理させんように、
なるべくなら、負担かけないようにって思って」
「どこで、すれ違ってんやろな。
今日の、あの店やって、2~3日前かな、急に思い立って電話してみたら、
空いてるっていうから、急遽、予約入れて。
アクセサリーやって、俺、ホントは、下見までしててんぞ」
「え・・・!?」
「そんな驚かんでもええやん。
オレやって、サンタになりたかったんやもん。
相手の喜ぶ顔が見たいって思う気持ちが、オレをサンタにしてくれるんやって。
相手の喜ぶ顔、想像しながらプレゼント選んでる時間に、サンタになれるんやって」
「だったら、十分、あなたはサンタになれたじゃない」
「ほんでも、肝心要の、おまえが、喜んでくれへんかったら、
意味あらへん」
「嬉しかったよ? ピアス」
「だって、あれ、オレがええなって、言うたやつやん。
あれ、ほんまに、欲しかったんか? オレが押し付けたみたいに、なってないか?
おまえの好きなんと、ちゃうんやろ?」
私は、バッグから、さっきのピアスを取り出した。
丁寧にラッピングされたリボンを解く。
「このピアス・・・。
確かに、選んだのは、あなただけど、でも。
あなたの目に、真っ先に留まったものが、欲しかったの。
たくさんある、いろんなキレイなものばっかりのショーウィンドウの中で、
あなたの心を、捉えたものが。
それが、きっと、私の、お守りになる、と、思ったの」
「どういうことやねん」
「あなたが、私を選んでくれたんだってこと、忘れないでいようと思ったの。
この先、どんなことが起きても、
あなたを信じていられる、お守り。
このピアスは、私自身なの。選ばれた、印」
「面倒なやっちゃな。そんなピアス信じんと、オレを信じてたらええのに」
「ホント。そうよね」
「なあ。そのピアス、片方ずつ、持つことにしようや」
「片ピアス?」
「今日みたいな、すれ違いを起こさんように、8つめの、魔法や。
サンタレンジャー、最後の魔法やぞ。
ペアじゃないし、お揃いっちゅうんでもないけど、
一個くらい、二人しておんなじもん持ってたかて、ええやろ」
彼は、箱から、ピアスをひとつ取り出すと、
「ほら、耳、だして」
私の髪を、掻き揚げた。
「うん、似合うわ」
私の耳に、ピアスをつけて、微笑った。
目じりに、いっぱいの、しわよせて。
「オレにも、つけたって?」
残っていたピアスを、今度は、私が、彼の耳に、つける。
「ヒトにやってもらうん、やっぱり、くすぐったいわ」
そう言って、彼は肩を少し、すくめた。
二人の耳に、小さな音符。
これから、この音符は、どんな楽譜を描くのだろう。
どうか、不協和音だけは、奏でませんように。
「ええか。
オレには、おまえがそこにおってくれることが、
最高の魔法やねんぞ。
他には、なんも、いらんからな。
余計なことに、惑わされんなや」
彼の言葉で、私は、また、魔法にかかる。
聖なる夜の、永遠に、と願う魔法に・・・。
FIN・・・?