1999年 アメリカ
原作 : ポ-ル・フレイバ-ガ- /マイケル・スウェイン
監督 : マ-ティン・バ-ク
出演:ノア・ワイリー/アンソニー・マイケル・ホール
《あらすじ》
『バトル・オブ・シリコンバレー』(Pirates of Silicon Valley)は1999年にアメリカで製作されたドキュメンタリータッチのフィクションドラマ。
Appleを設立したスティーブ・ジョブズとMicrosoftを設立したビル・ゲイツが、若き日にいかにして世界を変えたかを描いた作品。綿密な取材を基にした様々なエピソードからPC業界で最も有名なカリスマの姿の背景が分かる一作。
《この一文》
“それよりデニーズへ行こうぜ! ”
これはあくまでフィクションです。しかし、ここで描かれていたジョブズとゲイツという二人の人物像には説得力があって、なかなか面白かったです。
ジョブズはいかにしてApple社を一大企業にまで成長させたのか。またゲイツはいかにしてMicrosoft社を。まだ年若い二人が時代の先端を競い合って、彼らがそれぞれに目指した理想に向かってどのように走ったのかを描いていました。ジョブズの教祖っぷりが、独裁者っぷりが、ほんとうにイカレていて恐ろしかった! あんな上司は絶対に嫌だっ!! まだゲイツのほうが愛嬌があって話も通じそうなだけマシだったな……まあ、かくいう私はもう10年以上もMacを愛用しつづけているわけですが。でも、あの人物像がマジなら、ウォズニャックさんが出て行った理由も分かるってものですわー。
ジョブズの友人でもあり起業からの同志でもあったウォズニャック氏(しかしジョブズからすれば彼は部下に過ぎなかったのだろうか)は強権的で天才特有の(?)奇行に走るジョブズの尻拭いに疲労困憊、そして同時に凄まじい勢いで資産価値を跳ね上げるApple社にもついていけない庶民な彼は、とうとうジョブズと袂を分ってしまいます。この人が一番まとも。
そんなウォズさんも気の毒でしたが、それよりもなにが気の毒かといって、私が一番気の毒に思ったのは、ゼロックスのエンジニア達です。彼らが心血を注いで開発した新しいシステムは、不幸にも彼らの上司には全く理解されず、その上なぜかゼロックスの上司の口利きでそれを見学にやってきたApple社の面々に詳細を説明させられて、まんまと丸ごと持っていかれてしまうのです。Appleはそれで大儲け。うわー、なんて気の毒なんだ!
しかし、ジョブズのやり方だけがえげつないわけではなく、ゲイツもまた同じ様な手段をとります。この作品におけるゲイツは賢いので(実際も賢いのだろうけど)、驚いたことにあのジョブズを手玉に取ってだまくらかすんですね。末恐ろしいですねー。
けれどおそらくジョブズやゲイツのみならず、きっとこの時代のこの業界の誰もが、どうやって相手を出し抜くか、その果てしない競争に参加していたに違いありません。そういった熾烈な戦いを乗り切ったものだけが栄光を掴みとれる世界、もちろん自分たち独自でも研究開発の努力はするけれど、ときには出来もしないことを出来ると言ってハッタリをかましたり(まさかマイクロソフト社の始まりがあんなことになっていたなんて…)、これぞという技術や情報に対しては盗みとることも辞さないという態度には、ほとほと感心しました。道理で私は金持ちになれないわけだ。そういう点からすると、たしかにジョブズやゲイツは時代の寵児であり、新しいものに対する嗅覚、金儲けの才能がふんだんに備わっていたのだろうというふうに、この映画を見ることができました。
ちなみに制作は1999年。ちょっと古いですね。当時と今とでは、両社の状況は違っています。この作品では、ジョブズがクビになるまでが描かれていました。その後の復帰までは範囲外。あのまま潰れるんじゃないかと思っていたAppleが、まさかの盛り返し、そして現在に至るということを思いながら見ると、違った感慨がありましたね。ジョブズがまたいなくなったら、Appleはどうなっちまうのですかね。気が狂っとるとしか思えないけど(注:映画では。これはあくまでフィクション…と思いたい;)、素晴らしい才能とカリスマを持った人物であるというのは、やっぱり妥当な評価なんだろうなあ。
いや、しかし、それにしても、この映画のジョブズにはほんとうに関わりたくない感じです。真夜中に、社員たちは既にもう何十時間と休みなく働きつづけて朦朧としている時に、こっそり見回りにきていて、うっかりボンヤリしたり作業が進んでいなかったりしていようものなら「この給料泥棒がっ! お前のやっていることは裏切りだっっ!!!」とか喚いて作業中のコンピュータの電源を引っこ抜くような上司(←ジョブズ)とか、絶対に嫌だわー! 怖いわー! 恐ろしいワー!!
というわけで、面白かったです! 良作。