《収録作品》
*「マイスター・ハーヌシュ」
*「ファウストの家」
*「本棚の世界」
*「シューズショー、あるいは自分勝手な靴」
*「サボテンさん、ちょっと」
*「僕の友達はチクタクいう」
*「卑怯者、出てこい」
《この一言》
“「怖くないの?」
「怖いさ。でも怖さを克服したほうが勝ちだよ」
―――「卑怯者、出てこい」より ”
ペーチャさんに教えてもらったチェコのアニメ作家『ガリク・セコ短篇集』を観ました。すごく勉強になりました。
アニメーションと一口に言っても、種類はさまざまです。この人のアニメーションは、人形や本や靴を用いたアニメーションです。絵を動かすアニメーションと、このように実際の物を動かすアニメーションでは、はっきりとした印象の違いがあります。平面と立体の違いは、やはり決定的ですね。両者の違いはそれぞれの映像表現方法にも大きく影響しているのではないかと、もっと掘り下げて考えてみようと思いましたが、いまいちまとまらなかったので、また今度。
「マイスター・ハーヌシュ」は中世のプラハを舞台に、広場の大時計制作にまつわる伝説を描いた人形アニメ。物語の展開も、人形の表情も、すごく怖いです。
「ファウストの家」も同じくプラハが舞台、貧しい学生がほとんど廃墟となった無人の館で一夜を過ごそうとしたところ、テーブルの上に置かれてあった空の器の中に一枚の銀貨が入れられているのを見つけ……というお話。お金を得て贅沢を覚えた学生が、しだいに学問の道からはずれて破滅するという、それはそれはおそろしい物語。
アロイス・イラーセクの『ファウストの館』(
『東欧怪談集』(河出文庫)所収)という小説があります。私はつい最近この小説を読んだばかりですが、残念ながら本が手もとにないので、内容の細かいところまでは思い出せませんが、大筋はアニメーションと同じものでした。ただ、すごく簡潔になっています。およそ10分程度の短い作品でありながら、要点をおさえた、メリハリのある展開になっています。人形の顔にも迫力があり、見応え十分でした。しかし、ひとつ気になるのは、食堂のテーブルに大きな丸い穴が掘ってあって、そこへシチューらしきものをそのまま流し入れる描写。ああいうのってリアルに存在したんですかね? ストーリーとは関係ありませんが、衝撃でした。
「本棚の世界」は、書棚の本が好き放題に動き回るという不思議なアニメ。動いているのは「本」なのですが、見ていると人格を感じてくるから不思議です。《マキャベリ》がなにか大きな本を書棚から突き落としたり、トルストイだかドストエフスキーだかが(どちらであったか失念しました;)折れた書棚の足の代わりに床と棚の間にさしこまれていたりと、もっと教養が高ければそのおかし味が分かったかもしれません。私はとりあえず、美術館らしき場面が面白かったです。逃げる本を追いかける本。
「シューズショー……」「サボテンさん、ちょっと」は、靴とサボテンが動くアニメ。誘拐事件が起こったり、サボテンのおやじが浮気したりします。
「僕の友達はチクタクいう」「卑怯者、出てこい」は、捨てられたクマのぬいぐるみ(片足が無く、木の義足を付けている。スーパーポジティブな性格)と、同じく捨てられた目覚まし時計(針が動かなくなったので廃棄された。ややネガティブ)との友情を描いています。この2作品は、やたら面白かったです。ストーリーはやはり簡潔で無駄のない展開なのですが、さり気なく心に訴えかけるものがあります。ユーモラスで可愛らしいお話ではあるのですが、どこかハッとするような。
このシリーズは、他にも作られたのでしょうか。もしあるなら、ぜひ見たい!
さて、『ガリク・セコ短篇集』で、私はなにを学んだのかと言えば、短篇アニメーションではストーリーの単純さがとても大事であるということです。また、台詞がなくともそのちょっとした仕草によって言いたいことを伝えられる、卓越した表現力には感心しました。
それにしても、こういうアニメーションは作るのにたいへんな時間がかかっているのだろうなぁ。凄い。