怖くて書けない「病院の裏側」より転載
週現スペシャル知らないのは患者だけ
怖くて書けない「病院の裏側」
命を預ける場所だから、全幅の信頼を寄せていたい。でも、医者から言われることすべてを信用していていいのだろうか?そう思うあなたに、知りたくないけど知っておきたい本当の話、教えます
病院に高級絵画がある理由
「さっさと手術を受ければ、ここまで悪化させなくても済んだのに」---そんな嘆きが、日々「病院の裏側」で生産されている。例えばこんなケースだ。
東京ハートセンター・センター長の南淵明宏医師のもとに、心臓弁膜症の患者がやってきた。心臓は肥大し、不整脈が頻発している状態で、「胸が苦しくて夜も寝付けない」と訴える。これまで病院にかかっていなかったのかと尋ねると、その患者はこう答えた。
「5年前からかかっているけれど、『横になったら苦しい』と訴えても、医者は聴診器を当てて、薬を出すだけ。手術など話にも出ません。違う病院で診てもらいたいと相談すると激高されました」
この患者は、どうにもならなくなるまで我慢したあげく、ようやく南淵医師のもとにやってきたのだった。
「心臓弁膜症で不整脈の出始めなら、手術をすれば完全に治ります。ところが5年間も放置していたから、手術をしても不整脈は治らない。利尿薬の使いすぎで腎臓の機能も悪化していた。そのままでは命の危険もありました。このように、知らないうちに病院で悪化させられ、手遅れになるケースは、今も数多くあるんです」(南淵医師)
こんな病院は、なかなか他の医師への紹介状を書いてくれない。自分の診断に自信がない、どの医者に紹介すればいいかわからない、患者を減らしたくない---理由はさまざまだ。
そこで彼らは適当に薬を出し、「これで様子を見ましょう」と患者に言う。「患者を抱え込む引きこもり型の医者は、開業医にも大病院にもいる」(同前)というのが実情なのだ。
大病院では、医師たちが集まって治療方針を話し合うカンファレンス(症例検討会)を行う。治療に万全を期すためのシステムではあるのだが、こんな裏事情もあるという。
「カンファレンスは、みんなで検討することでリスクを分散し、一人の医師が責任を負わないで済むようにするための逃げのシステムでもあります」(南淵医師)
また、治療方針の検討といっても、内実は患者の病状より病院内の力関係で決まるという声もある。都内の総合病院に勤務する呼吸器内科医が語る。
「内科の教授の権力が強ければ、『切らずに治療しましょう』となり、外科の教授が強ければ『切りましょう』となる。鶴の一声です。だからカンファレンスで本当に最適な治療法が選ばれているかというと、実は曖昧な部分があるんです」
責任逃れの体制を守りたいのは、医療裁判が何より怖いからだ。病院や医師は、医療事故で裁判になったときのための保険にも入っているが、ほかにこんな「裏技」も使われているという。
「病院にはよく高級な絵画が飾られていますが、あれには裏事情があるんです。例えば10万円の絵画を50万円で購入したことにし、40万円をプールする。そうしてプールした裏ガネを、医療事故などのトラブル処理の費用に充てている病院は多い。病院には細かな医療ミスなどのトラブルが結構多いので、裏ガネはどうしても必要なのです」(埼玉県の総合病院院長)
裏ガネと言えば、患者からの謝礼も医師にとって大きな収入源となる。
「最近は医師への謝礼の文化もなくなってきましたが、関西にある私立病院では、医者の月給よりも患者からの謝礼のほうが多いという話がいまもある。一部上場企業の社長や老舗の大店の家族など、富裕層が多いんです。患者によっては50万円ほど渡すことも少なくない。税金がかからないので言いにくい話ですが・・・・・・」(関西の総合病院外科医)
また、人間ドックや美容整形外科など保険適用外の自由診療を行うクリニックの場合、診察料は病院の任意で決められる。そのため、有名医の名前で患者を集め、高額な費用を取っているところも少なくない。
こんな話もある。コンタクトレンズを処方する診療所では、管理医師が常勤することが義務付けられているのだが、法律を守っているところはほとんどない。
「違反ではありますが、現実には、医師が名義だけ貸しているケースがほとんど。診療所に顔を出さなくても月に20万円程度の報酬が入るし、眼科医でなくてもOK。医師の中ではいいバイト先として知られています」(都内の開業医)
透析患者は�定期預金�
不当に儲ける開業医がいる一方で、医療の歪みの大きな原因となっているのは、病院経営の苦しさだ。全国公私病院連盟と日本病院会が'11年に行った調査では、赤字の病院は62・3%。実に3分の2近くの病院が赤字経営ということで、それを埋めるために�儲かる医療�に走るのは必然で、こんなケースも出てくる。
「狭心症であれば、手術をすれば1回で完治するのに、カテーテル治療(血管に細い管を通し、狭窄を広げる治療)でお茶を濁す。詰まったら、またカテーテル。『バイパス手術は危険でカテーテルのほうが安全』と言って何度も繰り返す。4回カテーテルをやれば、医療費は全部で500万円以上かかります。患者負担分を除いた大部分が、公的保険から支払われている。ひどい無駄遣いです」(前出・南淵医師)
開腹手術の必要がなく、「体に優しい」という触れ込みのカテーテル治療も、儲けのために利用されていることもあるのだ。
都内にあるクリニックの内科医が漏らす。
「儲かる患者さんの代表は生活保護を受けている人。患者の負担はゼロで医療費はすべて国が払うから、取りっぱぐれが絶対にない。生活保護の人だけを受け入れている病院もあります」
人工透析も、病院にとっては重要な収入源。一度やり始めたら、一生透析に通うことになるからだ。
「診療報酬の改定で、点数がやや下がったとはいえ、やはり透析患者を抱えるメリットは大きい。医師の間では�定期預金�と言っています」(都内の開業医)
カネになるか、ならないか
人工透析の患者は年々増加し、現在は約30万人もが治療を受けている。その原因は糖尿病の増加にあるが、もう一つ、こんな恐ろしい理由があるという。
「病院の収入を確保したいあまり、本当に透析が必要かどうか疑問のある患者でも、透析にしてしまうケースがある。そもそも透析の基準自体が曖昧なんです。臨床症状、腎機能、日常生活の障害程度を点数化して、合計60点以上なら透析になるのですが、日常生活の障害程度なんて医者のさじ加減でどうとでも評価できる。腎不全を予防できる患者さんでも、きちんとした生活指導をせずに、透析になってしまうことも多い。だから日本は、世界で最も透析患者の多い『透析天国』と言われているんです。一度透析に移行してしまったら、続けなければ死んでしまいますから、セカンドオピニオンは絶対必要だと思いますね」(同前)
不必要な投薬や治療で儲けるという手法もあれば、ありえない「節約」で経費を浮かす手法もある。都内の大学歯学部講師が言う。
「あまり知られていないことですが、歯科医院でB型肝炎やC型肝炎に感染するケースがあるんです。原因は器具の消毒。オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)で消毒すべきものを、節約してアルコールに浸けただけで使い回す病院があり、その器具から感染するのです」
もし、感染ルートが不明な肝炎に罹っていたら、過去の歯科治療を疑ってみる必要があるかもしれない。
厚労省が2年ごとに改定している診療報酬も、医療を大きく左右する。病院は診療報酬が高いものに、より熱心になるからだ。たとえば、腹腔鏡手術は点数が上がった。そうなると、経験が浅いにもかかわらず、積極的に実施する病院が増えてくるのだ。
開業医が掲げる診療科目も、この診療報酬と密接に関連している。医師免許を持ってさえいれば、自分の専門に関係なく、さまざまな診療科の看板を掲げられる。内科医が、眼科や消化器外科の看板を出すこともできるのだ。
「意外と小児科を掲げている開業医が多いですが、小児科の専門医は少数です。ではなぜ小児科を掲げるのか。小児科の診療科を届け出れば診療点数が優遇され、儲かるからなんです。ですが、追加で検査などをすると赤字になってしまうので、診察はするけど検査は他でやってくれ、という病院が多い。小児科の専門医から『看板だけの標榜医の診察は間違いが多い。小児科を分かっていない医者ばかり』という声もよく聞きます」(千葉県の開業医)
脳外科医も、患者が多くて儲かるために、専門医でないのに看板を掲げている医師が少なくないという。
現行の制度では、入院日数が長引くほど診療報酬は下がり、在宅復帰率が上がると診療報酬も上がる。これは、医療費を抑制したい厚労省の意図が反映されているのだが、その結果、医療差別が生まれている。
「重症患者や糖尿病、心臓病など合併症がある患者が多いと、どうしても入院日数は長くなるし、在宅復帰率が下がる。だから、そうした患者を受け入れたがらない病院が出てきます。認知症患者も同様で、治療やケアに手がかかるため受け入れを嫌うのです」(埼玉県済生会栗橋病院・院長補佐の本田宏医師)
厚労省が導入を検討し、'03年から公立病院や大学病院などですでに試行されている「包括医療制度」(DPC)も、医療現場に圧力をかけている。この制度では、個々の患者の病名や重症度で、支払われる報酬額が決定されるのだ。
「DPCの導入時点では、病院が損をしないような金額設定でした。ところが足並みが揃ったところで、病院の収入が減るように、設定を変えることも可能なシステムなんです。日本の胃がんの入院や手術料金は、米国の盲腸程度ですが、今後はさらに抑制される危険性もあるのです。DPCを導入すると、支払い額が決められるから、赤字にならないように必然的に医療や検査も節約されます。本来は必要な検査でも、それを行うと赤字になるということも実際に起こっています」(同前)
必要な検査や治療が省かれていることもあるかもしれない。病院側としては、合併症も起こさず、治療をしたらすぐに治って退院してくれる患者や、透析のように収入源になる患者こそが「良い患者」なのだ。
大学病院など研究機関と連携している病院の場合は、もう一種類、歓迎する患者がある。研究対象になる患者がそれだ。
去る3月、慶応大学医学部は、呼吸器外科の教授らが肺がんの研究のために、がん患者ら31人の骨髄液を無断で採取していたと発表した。
「患者は知らないうちに教授らの研究の実験台にされていた。これは、研究成果を発表することで、研究費や助成金が下りてくるからです。名前も売れるし、出世に必要な業績にもなる。これが表沙汰になったのは、内部告発があったからのようですが、ウラを返して言うと、内部告発がなければ闇から闇の可能性もあったということでしょう」(都内総合病院内科医)
製薬会社との危ない関係
病院や医師に入るグレーマネーといえば、製薬会社から流れる金もそうだ。
今年4月、製薬会社225社からなる医療用医薬品製造販売業公正取引協議会は、医師への接待は上限2万円までという自主規制を発表した。しかし、「実態は変わらない」と言うのは大手製薬会社のMR(医薬情報担当者)だ。
「これまでも何度も規制があったけれど、結局はうやむやで、実態は変わっていません。でも、露骨な接待なんてドラマの世界の話で、実際はもっと巧妙にやっている。製薬会社の社員は同席せずに、医者に好きなように飲み屋で遊んでもらい、ハイヤーで帰ってもらう。そのすべての領収書は製薬会社に回ってくる、というようなルートが確立されていることがほとんどです。
医者の側も、露骨に『この会社のこの薬を使え』と言うと癒着疑惑を持たれるから、そんなことはしない。新薬の説明会の際、製薬会社は、病名ではなく症状緩和の話をします。たとえば、この薬はだるさに効くと言えば、だるさを伴うすべての病気にあてはまるので、薬のターゲットが増える。そこで力のある先生が実例を挙げて、患者にこんな効果があったなどと言ってくれれば、その薬の使用量が飛躍的に上がるという仕組みです。そのためにも、接待は欠かせません」
医者不足も医療現場の状況を悪化させている。前出の本田医師が語る。
「救急医、麻酔医は日常的に不足しているし、抗がん剤治療を専門とする腫瘍内科医もほとんど育っていません。そのため、少ない医師が常軌を逸したハードワークをこなして、どうにか現場を回している。日本の勤務医は32~36時間連続労働が日常で、6~7割の医師は徹夜明けでも手術をやってきました。
この4月から、当直明けの手術をなくしたら診療報酬が上がるように改定されましたが、肝心の医者は増えないのだから、人手不足がいっそう深刻になり、手術待ちの患者が増えるだけの悪循環なのです」
病院の裏側に広がる闇は、とことん深い。
「週刊現代」2012年5月5・12日号より