関電値上げ:産業界に打撃 4社追随見通しより転載
毎日新聞 2012年11月26日 21時37分(最終更新 11月27日 08時10分)

電気料金の値上げを申請し、会見する関電の八木社長(右から2人目)=大阪市北区で2012年11月26日、望月亮一撮影
関西電力が26日、電気料金の値上げを申請した。九州電力も27日に申請、東北、北海道、四国各電力も追随する見通し。今後の焦点は値上げ申請の審査に移るが、電力5社の値上げの影響は産業界にとって甚大で、全国各地に生産や営業の拠点を持つ企業は、東電に続く大幅値上げになる見通し。海外勢との競争が激化するなか商品価格への転嫁もままならず、業績への影響は避けられない企業も多いと見られ、産業界は危機感を強めている。
◇審査は人件費が焦点…妥当性
関西電力が平均11.88%の家庭向け電気料金値上げを申請したことを受け、政府は今後、値上げが妥当かどうかの審査に入る。関電は人件費の大幅カットなどを強調して理解を得たい考えだが、世論の反発は強いだけに、値上げ幅がどれだけ圧縮されるかが焦点となる。ただし関電の申請は現在停止中の高浜原発3、4号機が来年7月に再稼働することが前提で、安全性に関する原子力規制委員会の判断次第では、追加値上げの可能性も残っている。
「徹底した経営効率化を大前提としたうえで、(値上げを)申請した」。関電の八木誠社長は26日午後、資源エネルギー庁の高原一郎長官を訪問し、合理化に最大限取り組む姿勢を強調した。

家庭の電気料金値上げの流れ
経済産業省は29日、有識者らによる専門家委員会を開催。27日に値上げ申請する九州電力と合わせて、原価に当たる人件費や燃料費などでさらに削減余地がないかを精査する。来年1月28日には利用者が意見を述べる公聴会も開かれる。
このほか、内閣府の消費者委員会も専門調査会を開いて、消費者の立場から申請を検証する。最終的には経産相と消費者担当相が協議した上で、「物価問題に関する関係閣僚会議」を開催し、値上げ幅を判断。一連の審査の標準期間は4カ月程度とされる。
審査で焦点となるのが人件費だ。9月に値上げを実施した東京電力は申請時の値上げ幅が平均10.28%だったが、人件費を中心に圧縮された結果、認可時には同8.46%になった。関電は、経産省の査定基準に基づき、今後3年間の正社員の平均年収を11年度比16%減の664万円と従業員1000人以上の大企業並みに抑えた。経産省は「東電は公的資金が投入されたため人件費をさらに削減した。他の電力会社とは別」と、おおむね妥当とする可能性が高いが、消費者庁などが強く反発すれば、さらなる削減を求められる可能性もある。また、値上げの原価には政府の「40年廃炉原則」に引っかかる美浜原発の資産を計上しており、今後議論になりそうだ。
また、関電が値上げの前提とする高浜原発の再稼働は、規制委の判断基準が定まっておらず、大幅にずれ込む可能性がある。関電は、原発が全基稼働しない場合、「今回の申請の倍の値上げが必要」としている。【丸山進、小倉祥徳】
◇鉄鋼、自動車 コスト増、深刻…企業
東京電力に続く、関西電力や九州電力など5電力の値上げは、東電の値上げや円高で価格競争力が低下し収益悪化に苦しんでいる企業に追い打ちをかけることになる。
日本鉄鋼連盟の友野宏会長(新日鉄住金社長)は21日の定例記者会見で、関電など5電力の値上げは鉄鋼産業全体として900億~1000億円のコスト増になるとの試算を公表し、「(鉄スクラップを原料に電気炉で鉄鋼を生産する)電炉メーカーにとっては廃業勧告だ」と訴えた。九州に生産をシフトしている自動車業界にも頭の痛い話で、ある大手幹部は「我々は簡単に価格転嫁できないが、電力会社の『お金が足りないから値上げします』という姿勢は民間企業とは思えない」と非難した。
関西電力管内に主力拠点を置く企業への影響も大きい。パナソニックは、年間約500億円の電気代のうち関電管内での負担が6割を占める。単純計算では値上げで約60億円のコスト増。津賀一宏社長は26日、記者団に「簡単には消費電力を減らせず、工場の移転もできず(悪化した業績を)挽回できなくなる」と懸念を示した。