放射能汚染地図の解説@参議院議員会館 書き出しより転載
2012年8月23日 放射能汚染地図の解説、院内集会(参議院)、
以下は、このブログ読者提供の書き出しに、私がほんの少しだけ手を加えたものです。
早川由紀夫です。今日は参議院議員会館の101号室に来ています。国会議員の方々お二人、地方議員の方々が大勢、30人くらい。そしてプレスの方が3,4人。個人のジャーナリストの方が5、6、7人。IWJとOPKがネット中継してくれています。これは、院内集会というものに相当すると思います。石川さんからお話をいただいて、参議院の中で話さないかと言われて出てきました。政治家の方々と直接お話しできるいい機会だと思い、二つ返事でおうけしました。これが、どれほどの意味を持つかというと、たいして意味をもたないと知っております。別に国会に呼ばれて、参考人として何か話すというわけではありません。これは単なるお勉強会ですので、とくにネットで見ている方々、勘違いなさらないように。ここで話したからといって、何かがこの国で決まるということではありません。
もうひとつお話しておくことは、先ほどご紹介いただいたように私は大学教授であります。肩書きよりも、僕は学者であります。火山を対象とした地質学の手法によって、科学的にものごとを考えている人間であります。私がこの放射能災害によって、何ができたかというと、お手元に1部ずつあるこの地図を作ったわけです。今日は、この地図に何か書いてあるかということを40分間でご説明します。
私の説明は、学者がこの放射能リスクを評価する、そういう行為です。科学的行為です。その先、そのリスクをどう管理するか、マネジメントと英語では言いますが、そのリスクにどう対応していくかを考えるのは、個人、および政治家の方々のお仕事です。リスク管理において、私が学者としてできる、科学が貢献できるものの「重要性は1割程度しかない。」と唐木英明さんが言っております。私もそう思います。残りの9割は、科学以外の、経済であるとか政治であるとかその他の社会的要請によって決める。それで結構だと思います。ただし、そのときに、科学と矛盾したことを、科学を軽視した結論を下すときは、科学を捻じ曲げないでほしい。「科学はそうあるけれども、別の要請によってこう結論してリスク管理する」と覚悟して腹を決めてほしい。今日きてくださっている政治家の方々には、とくにそう言いたい。
「自分たちのリスク管理の思いを遂げるときに、科学を捻じ曲げるな。」もしそういうことがあれば、私は科学者として徹底的に戦う、と意思表明します。私は最大限に、皆様に、この地図によって現在の科学的知見をお渡しします。リスク評価を渡します。ですから、それを受け取って、みなさんがその先はやってほしい。
地図の説明に入っていきます。表と裏があります。
「福島第一原発事故の放射能汚染地図」6万部刷りました。先々週。全国に配布して、いま配布基地からどんどん渡してもらっています。これは無料です。私は実は昨年12月に所属の学長から訓告処分をうけました。そうしたら、「save hayakawa」と言って、なんだか私を助けろという運動がツイッターでひろがって、群馬大学に寄付がいっぱいきました。私宛に400件きまして、合わせて400万円いただいています。そのうちの一部を使って、この地図を製図して印刷して、6万部お渡ししました。
何が書いてあるかというと、ひとことでいえば、芝生の上1メートル。あるいは、草地の上1メートルの値です。 放射能は昨年3月にでました。出て、降り積もりました。地表に降り積もったほどですから、そのあと、風が吹いて、雨が降って、あちこち移動しています。移動してしまったあと測るとよくわからないので、そういう風雨に影響されないところ。理想的なのは隣の家の芝生です。芝生の上、広い芝生の上の1メートルで測った値を、理想的なところはあまりありませんが、それに準じるところのデータを日本中から集めて、1枚の地図にしたのがこれであります。
放射能は、みなさん御存じのように、半減期という時間で半分半分になっていきます。ですから、時間がたつと減っていきます。事故からもう17ヵ月たちましたので、66%くらいになっています。この地図は、私の都合上、昨年9月の時点を選んで表現しております。したがって、この半減期のルールが、ここにグラフがありますが、1年で78%、3年で51%、5年で37%を書いてあります。9月の時点は、半年たっていますので、もともとの状態の85%を表現しております。もともと、3月どれだけ降ったかを知りたい場合は、85%分の1をかける必要があります。
ぱっと見てわかることは、福島原発から北西の方向に、福島の方向に赤いおびがでております。そちら方向がひどく汚染されております。一番濃い色は16と書いてあります。16マイクロシーベルト毎時です。それから、8、4、2、1、0.5、0.25、0,125と、半分半分になるように、線がひいてあります。これは、私が専門とする火山の分野で火山灰や軽石の分布を表現するときに、ごく普通に用いられる手法でありまして、このような表現をするとデータが扱いやすい、作図しやすいので、このような線の引き方をしてあります。
100、200、300といった等高線のような等間隔ではありません。半分半分で示してあります。ですから、赤いところは、実はすごく山が高いです。黄色いところから、緑のところまで、ずうっと裾野が伸びていくような感じで、難しい言葉で言うと線形ではありません。難しいですね。
北西の飯館、福島の方向に伸びていて、くの字になっていて、こういって、あっちにもあるしこっちにもある。なぜ、このようなあっちこっちいろんな方向にあるかというと、これはすべて風のせいです。福島原発から放射性物質がでて、それが風によって移動して、このような分布を作りました。移動して雨に打たれて下に落ちて、このような分布をつくりました。ですから、原発から20キロメートルとか30キロメートルとかの同心円でリスクを評価するという考え方は原始的であって、3月の最初の1週間ぐらいはよかったかもしれませんが、そのあと4月以降は、そのようなやり方ではぜんぜんだめです。このような地図を作る必要があったのです。まあこれは常識の範疇ですが。
東京はどうかというと、東京駅が0.125線上にのっている。永田町も測りにきました。一人一揆しました。昨年の9月くらいに。そして、ここも、汚れているという認識をしております。一番外側の、0.125線の外側ですが、まだ汚れております。実は、この地図の範囲内全部汚れております。それをわかってもらうために、この日本地図を用意しました。右下の隅に、日本地図を示してありますが、これは、昨年の4月に、セシウムがどこにどれだけ降ったかという各都道府県の数値です。すべて、九州から沖縄、北海道にいたるまでなにがしかのセシウム137が降っています。日本はすっかり汚染されています。その中で、汚染のひどいところを、0.125μシーベルト毎時の線まで、私が表現しました。その内側は、わりときちんと表現してあります。その外側は、私の手法では、この手法では測れないので表現してありませんが、汚染されていないなんていうことはありません。日本中ことごとく汚染されております。
それから、この地図のデータはどうやって得たかということを、お話しておく必要があります。自治体のデータが基本です。自治体というのは市町村という意味です。県とか市とか町とかそういうところ。それに民間のデータもあります。すべて使えるものを、インターネット上で手に入るすべてのデータを、私が史料批判して、つまり芝生の上1メートルという私の基準にかなうデータだけを私が選んで、いいと思うものだけを採用して作った図です。それは昨年の6月まではそうでしたが、6月下旬に線量計を手に入れて自分で測ることを始めました。それで肝心な場所は自分で測って間違いないということを確認しております。
半減期の説明をもう一言加えておきます。半減期が、急に減って、ゆっくり減っていく。これは、今回のセシウムが、134と137の半々のブレンドだったんです。セシウム134の半減期は2年、137の半減期は30年です。2年と30年だからちょうど真ん中へんで算術平均の16年くらいかなと思うのは素人で、ちょっと賢いと6年かなと思うんだけど、それも間違いで、よーく考えると3年なんです。これはちょっと難しいので、数学での説明はしませんが、答えは3年です。3年で、放射能は半分になります。5年で3分の1になります。しかしそれでセシウム134をほとんど使い切ってしまうので、残りは、半減期30年のセシウム137がしぶとく残るので、なかなか減りません。43年たっても、まだ10%います。そういうふうな減り方をします。ですから最初の3年ぐらいは極めて肝心である。最初の3年間をうまくしのげば、なんとか住めるような地域があるようにみえます。
▼裏面
裏は、私がいいたいことがいっぱいでておりますので、順次説明しておきます。表が基礎データでありまして、裏が、そこから私が解釈したことがらが書いてありますので、ここがリスク管理への橋渡しになる部分です。
「放射能汚染地図の誕生 地図の作成を通して見えたこと」と、編集者がタイトルをつけてくれました。最初にある「2011年4月21日に発表した初版地図(部分)」。この紙の地図は七訂版、7回目のものです。一番最初に地図を作ったのが4月21日。そのあと、3カ月おきくらいに改訂して、すみやかにインターネットブログに公表してきました。最初の地図、4月21日のものは、ほとんど福島県内しかデータがありません。そして、小窓にしてありますが、流山、柏、松戸、三郷、このあたりが高い。黄色く塗ってあります。つまり、福島県の白河とかいわきとか同じくらいの汚染が千葉県東部にある、ということを4月21日の地図では表現しました。
その下にある6月18日の改訂版、2回目の地図ですが、これが私の一番の自慢の地図であります。6月18日という時点でこのような地域の汚染、つまり福島から遠いところまで、先ほどの首都圏東部の汚染。それから白河からの汚染がずっと那須野原を通って日光へぬけてそして群馬にも汚染がある。私は群馬大学に勤務しておりますが、本拠地である群馬の山がすっかり汚染されてしまったことを知った。さらには、岩手県の一関のほうにも汚染が伸びているということを、6月18日の時点で僕が把握して公表しました。そのあと、文科省の航空モニタリング測定が行われますが、それは7月に入ってからです。6月時点では文科省航空モニタリングは福島県内にしかありませんでした。7月以降に文科省が続々と報告した他県の結果は、私の6月18日地図ととてもよく似ていたと自己評価しております。
そのとなりにある、これがみなさん一番わかりやすくて、説得力がある図になると思います。フクシマとチェルノブイリを比較したものです。チェルノブイリはみなさん御承知のように1986年旧ソ連の時代、いまから26年前に起きた原発事故であります。その放射能の分布とフクシマの分布を、ちょっとこれはチェルノブイリが㏃(ベクレル)で、フクシマが㏜(シーベルト)で、換算が必要な類のものでありますが、私が、チェルノブイリに有利なように、フクシマにひかえめに基準をおいて比較して塗った図です。これをみると、面積はチェルノブイリが3倍か4倍。汚染の程度つまりまき散らされた放射性物質の量は、チェルノブイリが3倍か4倍です。ただし桁は同じで、桁違いなんてことはない。でもわが国のほうが人口密度が高いので、同じ赤とかピンクとかのところで比較すると、その中に住んでいる人の数はフクシマのほうが多い。つまり事故としては、被害としては、チェルノブイリよりもフクシマのほうが大きいという認識を、私はもっております。出た放射性物質の量はたしかに3倍か4倍、あちらのほうが多いですが、そのように思っております。これは福島にとってひかえめな私の表現であって、別の方、たとえば、双葉町の町長さんが、このあいだネットで見せていた図は、フクシマが私の表現の3倍か4倍にしてある図です。ですから、フクシマとチェルノブイリの面積がほぼ同じになります。この考え方の違いは、唯一、シーベルトとベクレルをどうやって換算するかという手法に依存します。僕は、チェルノブイリの図の右下に書いてあるような考え方で、セシウム137だけで比べた。134はなきものとして比較した。まあ、ひと言でいえば、チェルノブイリ有利な表現で比べてこのようになっております。
ということでまとめますと、福島はチェルノブイリに匹敵する事故であって、これを軽視することはまったく不適当であって、重大な事故であるという認識を私は当初からもっております。
次、2段目にいきます。それぞれの汚染が何月何日に起こったかということを示してあります。3月12日に女川が汚染されました。3月15日に(これが最大の汚染であります)放射能の雲は南に下がって東京の上を通過して、時計回りに群馬とか栃木の山に行きあたりました。さらに福島の中通りに戻っていきました。そして夕刻になって、特別に濃い放射能の雲が出て、その時の北西に向かった風に乗って、飯館を完全に放射能の支配下に置いた。3月15日の朝からと夕刻からのこの二つで、半分以上の汚染が発生しました。
4日おいて、3月20日の夜から、北に向かって放射能が行って、一関が汚染されました。そして21日から始まる22、23まで、東京で大雨が降りました。それが、この柏を中心とした汚染であります。このように3月12日から、23日までの12日間でおもて面に表現した汚染が99.9%発生しております。その後の4月以降、なんかもにょもにょやっていて、まだ完全に放射能の放出が止まってはおりませんが、それによる汚染はごくほんのわずか、軽微なものであります。汚染は3月12日から23日までの間に起こりました。
この放出が12日間ずうっと同じ調子で続いていたと東工大の牧野淳一郎さんはいいますが、私は、これは間欠的な出方をしたんだと火山学の経験から考えています。この地図の分布は、ヒトデみたいな形の分布は、「あるときだけ出た」と私に教えます。1週間、10日間、のべつ幕なしにでていたのではなくて、「あるときだけでた」とくには見える。とくに一番顕著なのは南相馬です。南相馬は、海岸から山に向かって放射線の濃度がどんどん変わります。等高線をぶった切ることになる。この分布は、ずうっとでていたモデルではなかなか説明できない。これは僕の、火山学、火山噴火を見ていて地図を作ってきた僕の経験が言わせるものです。そういうふうに、ぼくはのべつ幕なしじゃなくて、間欠的な出方をしたというふうに、ずっと思っています。
1カ月くらい前に、どこかのテレビが、このそれぞれの放出は原子炉の圧力低下に対応するとニュース報道してました。原子炉の圧力低下はなぜ起こるかというと、ベントしたから。ですから、この汚染は人の手によるものであると僕は現在理解しております。3月11日の地震と津波によって、福島原発が壊れて、手がつけられなくなって、そして手をこまねいて見てたらこのような汚染が生じたのではなくて、原発を手当しようと思ってベントという作業、圧力を解放する作業、それをした度ごとに、この汚染が生じた。3月15日は、風が東京に向かっているのは明明白白であった。なのにベントして圧力解放したと僕は解釈しております。そのときにベントする必要があったかなかったか、僕はエンジニアじゃないからわかりませんが、この汚染を生じせしめたのは、原子炉が自動的に放射能を出したのではなくて、人の指が操作したものだというふうに僕は現時点では理解している。そういうふうな理解を僕は今まで出た報告書を読んで、ちょっといやなことを考えている。こういうことをツイッターで言うと怒る人がいるんですが、私はそうだと思う。私が思うことに反論があるならきちんと反論してほしいと思っている。
次の焼却灰のセシウムにいきます。各市町村・自治体に、ゴミ焼却場があります。そこでの焼却した灰のセシウムを測ったものです。○で書いてあるのは、2011年8月29日の環境省のデータ。で、一か所間違っていて、小笠原村が☆になっていますが、これは○にしてください。間違いです。☆はその後、これだけでは足りないので、私が協力者に頼んでネット上で調べたデータであります。
まず見てわかること。福島市、郡山市9万5千とか8万8千Bq/kg。ひどい汚染です。同じように柏7万、松戸4万7千、東京都江戸川区1万2千。このように、焼却灰すなわちゴミの灰が相当汚れているという事実があります。これは私のデータではありません。各自治体が公表しているデータです。つまり、芝生の上1メートルというやり方とは全く独立に、都市生活者がいると、その地域の平均的な汚染が、ゴミを焼却したあとの灰のベクレルを測ることによって、わかる。そういう手法を使って、日本地図上に点をおいたものであります。この見方をすると、私の地図が汚染があるという一関も3万ベクレルで汚れている。それから、静岡市は442でまあ汚れているし、名古屋市は111でまあ汚れているし、京都、大阪、神戸ぐらいまでちょっと汚れている。焼却灰のベクレルから、近畿地方も汚染されたことがわかります。ただし九州にいくと、大分市、長崎市、こういったところの汚染はわかりません。でもおもて面にあったように、昨年4月にそこにもセシウムが降ったことは事実であります。測り方によって、汚染がどこまで把握できるかということが決まっていて、焼却灰を測るとこれくらいの精度でわかります。
それからもうひとつ。小笠原村ですが、115ベクレルという数字がでています。私はこれをおがさわら丸による汚染だろうと想像しました。汚染された食糧を積んだおがさわら丸が、竹芝から小笠原村父島に行って、人々が消費をして、ゴミ焼却場に行って、その灰が汚染されたモデルを考えていたのです。しかい私の考えを聞いた父島の方が、どぶの土をとって、八王子の市民放射能測定所に持ち込んで測った。結果は、汚れていました。つまり、小笠原は自然に汚れた。小笠原は福島原発から1150キロ離れています。小笠原も汚染されているとわかった。こうやって「怪しい」といろいろ考えていると、島民の方が自分で自分の危険を気にして真実がわかっていくという、きわめて学術的なことがらが市民レベルで行われていて私はうれしい。
同じことが、雨どいについても言えるし、どぶ(側溝)についても言えるし、このあと、石川さんがお話になる路傍の土についても言えます。そういった、放射能が濃縮・濃集しているところに注目して測ると、軽微な汚染のところの特徴がよく把握できる。 いっぽう、福島、柏といった濃い汚染のところは、芝生の上1メートルで測るとよく地図が書けます。
一番下の付録「セシウムは、いまどこにあるの?」というのは、この地図を作るにあたって、グラフィックデザイナーの萩原さんが作ってくれました。私がいつも言っていることを、小学生にもわかるように絵もついた形で、どぶとか雨どいにいっぱいセシウムがあるよ。葉っぱにはついてますよ。毎春、風が吹いているときには気をつけましょう。タケノコとか山菜とかイノシシには、いっぱいセシウムがたまっているよ。そういった生活するときの注意点を書いてくれました。「いま勉強しないと死ぬぞ!」というのは僕がツイッターでいつも言っていることです。
参考文献は8個あげましたが、このほかにも使っております。文科省の航空機モニタリングも使いました。世の中に出回るっているすべてのデータを使ってこの地図を作りました。
放射能対策に正解はありません。放射能とどう折り合いをつけるかは、個人の事情によって異なります。住むのか住まないのか、食べるのか食べないのか、買うか買わないか、すべて自分で勉強して自分で決めることです。
みなさんにお渡しするこの地図から、現在の科学的知見を受け取って、みなさんはその先をやって下さい。この放射能リスクにどう対応してゆくか考えるのは、みなさんそれぞれのお仕事です。大勢の方々に、この地図を利用してもらえたらうれしいです。